政権交代という歴史的な選挙結果により、非自民の政治を求める国民の姿ははっきりと確認できたが、政策的に民主党、自民党がどう違うかに関しては、マニフェストを確認しても明確ではなかった。両党間で政策上の争点がはっきりしなかったにも関わらず、民主党がこれほどまでの圧勝となったのは、小選挙区制、および2大政党の枠組みにおける、世の中のムードの影響力の高さを証明するものである。
小選挙区制では
各候補者の公約に違いがなくなる
今の日本の選挙は小選挙区制プラス比例代表制によって行われているが、各小選挙区で勝てる候補者は1人だけである。1人しか勝てない多数決投票においては、各候補者は多数派に賛成してもらえるような政策を打ち出すことが重要となる。多数派とは、多くの場合、中間層ということになる。したがって、すべての候補者が中間層の望みは何かを分析し、それに答えるような内容の公約を掲げることとなる。結果として、各候補者の公約内容は非常に似通ったものとなり、有権者にしてみると候補者の顔が見えない選挙となってしまう。
これは、経済学の世界で言われるホテリングの立地均衡で考えるとより分かりやすい。夏のビーチで2つのアイスクリーム屋が営業する時、お互いがビーチの両端で営業すればうまく商圏を2分することが可能である。しかし、最大の売り上げを確保しようとすれば、立地条件的にはビーチのど真ん中に店を構えるのがベストである。そこで結局2つともビーチの真ん中に店を構えてしまうというものである。小選挙区でも同じことが起こっており、各候補者がビーチの真ん中に店を構えるがごとく、中間層の耳に心地よい公約を掲げることで、それぞれの違いは埋没化していく。
もしこれが中選挙区制、あるいは大選挙区制のもと、各選挙区から複数の当選者が出る場合だとどうなるだろうか?
最初から1位当選は狙わずに、2位当選、あるいは3位当選を目指して特色のある公約を掲げる候補者が出てくる可能性がある。実際、昨年、自民党のある大物議員の話を聞く機会があったが、なぜ各候補者はもっと特色のある政策を打ち出せないのかという質問に対し、小選挙区制だからだ、と明言していた。そして、その小選挙区制のもと自民党は議席を確保してきたという経緯があるので、小選挙区制を変えるわけにもいかない、とのことであった。
政治や投票行動が経済的観点で解説されることはあまりないが、我々は投票を通じて公共財への支出方針を決定していることを考えれば、政治や投票行動は公共政策学、経済政策学の観点でとらえることも可能だということに気付く。