「決して悪い意味ではなくて、キャプテンらしくないキャプテンだと思います。キャプテンは嫌われ者にならないといけないし、先頭に立って物事を発することも求められますけど、阿部さんは浦和レッズというチームの個性を生かすために、まず僕たちが好きなことをやらせてくれる。それでいてチームがよくない時、マイナスの時こそ先頭に立ってすべてを背負い、悪い気を吸い取ってくれるんです」

 槙野が言及した「マイナスな時」の象徴が2015年3月であり、一方で「好きなこと」のひとつに直接フリーキックがある。往年の名手デビッド・ベッカムになぞらえて「アベッカム」と呼ばれたほど、高精度のキックを右足に宿らせながらも、阿部は進んで蹴ろうとしない。理由を聞くと、予想通りに「他の人が蹴ってくれるので」と返ってきたことがある。

 もちろん、本当に必要とされる場面では伝家の宝刀を抜く。2016年7月の柏レイソル戦、そして今年8月の清水エスパルスで、阿部の右足から放たれた美しい軌跡がゴールネットを揺らしている。直接フリーキックからのゴールは、ジェフ時代から通算して「10」の大台に到達している。

 キャプテンをMF柏木陽介に託した今シーズンは、リーグ戦の先発回数が「33」から「12」に、プレー時間が2950分から1353分にそれぞれ激減した。それでも常に万全の心技体を整えてきた阿部の存在感は、けが人が続出した終盤戦で代役の利かない域に達していた。

 天皇杯決勝もDFマウリシオの回復が間に合わない緊急事態を受けて、3バックの中央で先発。準決勝まで3試合連続ゴールを決めて、ベガルタをけん引してきたルーキー、FWジャーメイン良をシュート0本に封じるなど、老獪な守備を何度も見せつけた。それでも、阿部は謙虚にこう語る。

「レッズの選手は、全員がキャプテンだと思ってプレーしなければダメだと思うので。その意味では、やるべきことも、見ていかなければいけないところも、それほど変わっていないですね」

 ロイヤルボックス内の表彰台に上がるのも最後ならば、天皇杯を掲げる歓喜のシーンでも後列の左隅にひっそりと立つ。目立つことを避ける姿勢は変わらない。それでも、天皇杯制覇で出場権を手にした来シーズンのACLを含めて、タイトル獲得を義務づけられたレッズの中で、阿部はいぶし銀の輝きを放ち続ける。