地方は「稼ぐ視点」がないから衰退するーー。
18歳にして全国の商店街が共同出資する会社の社長に就任して以来、20年近く地方でのビジネス分野で奮闘し、酸いも甘いも経験してきた木下斉氏はそう指摘する。
新刊『地元がヤバい…と思ったら読む 凡人のための地域再生入門 』の発売を記念して、どうすれば地方が立ち直るか、そのヒントを語ってもらった。
今回のテーマは「地域おこし協力隊」制度、5つの改善ポイントについて。
――前回は地域おこし協力隊にまつわる問題についてご指摘頂きました。具体的に、地方はどのようにしたらよいのでしょうか。
「これをやれば全部の地域がよくなる」なんて都合のいい解決策はありません。ただ、最低限地方で若者たちが挑戦しやすくするうえで行うべきなのは、以下の5つだと思います。
(1)兼業規程は全国一律でOKにすべし
地域おこし協力隊は、立場としては「期間限定」の「非常勤公務員」として各地方に受け入れられます。もちろん「期間限定」といっても、終了次第出ていかなければならないわけではなく、むしろその期間を終えれば、事業を立ち上げ定住することが期待されているわけです。
それなのに、地域おこし協力隊に対して、兼業規制をしている自治体がいまだにあります。兼業ができないということは、行政から言われた業務以外で事業を立ち上げて収入を得てはいけないということ。
明確な規制はなくとも、「やってもいい」と言われたのにいちいち許可を細かくとらないといけなくて断念した、という話も聞きます。
許可しない自治体は「任期付き公務員だから兼業はできない」ことを理由としているようですが、1〜3年の期限付き雇用で、その後は自分で仕事をつくり住み続けてほしいという制度でもあるにもかかわらず、杓子定規に任期中は「副業もするな」というのはあまりにもブラックすぎます。
もし副業をさせないのであれば、しっかり正規雇用で若者を雇って、正規公務員として地域に入れるべきです。期限付きで雇用するのであれば、あくまでベース賃金としてお金は払うが、それ以上は自分で稼ぐことを認めるのが筋でしょう。
地域再生事業家
1982年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。一橋大学大学院商学研究科修士課程(経営学)修了。一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事。内閣府地域活性化伝道師。高校在学中に早稲田商店会の活動に参画し、高校三年で起業。全国各地で民間資本型の地域再生事業会社を出資経営するほか、地方政策提言ジャーナルの発行、400名以上が卒業して各地で活躍する各種教育研究事業を展開している。
――なぜ、兼業がそこまで重要なのでしょう?
先月まで協力隊としての仕事だけをさせておいて、今月から「任期が切れたから起業してください」というのは、あまりに当人にリスクを負わせすぎです。
任期中から、小さくとも事業につながる仕事を手がけ、どれくらいの収入が得られそうか目算を立てておかなければ、起業が一か八かになってしまいます。
そもそも、地域外から来た人は、地域にもともと住んでいる人と比べ倍くらい給料があってしかるべきなのです。
所得ベースだけでみれば不均衡に見えるかもしれませんが、もともと地元に住み土地も家も田畑も持っていたりする人と、地域外からポンときて、家賃も払い、生活すべてをゼロから立ち上げる人とを比べれば、後者のほうが条件が不利なことは明らかなわけです。
だからこそ、ベース部分は3年だけ保証し、それでも足りない分は、プラスαで事業を立ち上げてもらい収入を確保させる。
――「協力隊」という身分が終わった後のことを考えて、任期を過ごしてもらうべきだと。
前回述べたように、一時的な人口移動で終わるのであれば、そもそも地域おこし協力隊の意味自体あまりありません。「あの地域に行ったら儲かった」と地域おこし協力隊に言わしめ、後に続く人をつくることが大切なのです。
自治体も「ベース収入として月20万は出しますが、独自の事業を通じて、1年目は月5万、2年目は10万、3年目は20万の収入を生み出すことを想定して進めてください。そのために地元も●●のようなことを用意します」といったカタチでメッセージを発信すべきでしょう。
しかし、実態はといえば、いまだに「業務時間中は市町村の外に出てはいけない」などと言い出すところさえもある。割り切った逞しい協力隊員は、その声を半分無視して動いていたりします(笑)。
あるいは、ジビエ工場で単なる工場労働者的な勤務を求められたため、その業務を週3日に減らしてもらい、2日は企画的な仕事を自分で立ち上げている女性もいましたね。
ただ、そのような個別対応を褒め称えて終わってはいけません。しっかりと複業、パラレルワークを前提とした制度にしないと、単なる非常勤公務員雇用のようになってしまいます。
(2)「特技」(手に職)がある人を優先して採用すべし
――人材としては、どういう人に来てもらうのが理想なのでしょうか?
まず、地域活性化に必要なのは、「平均的に高い成績を取り、高い偏差値の大学に入る能力」とは別物です。
毎日ちゃんと学校に通い、先生の言うことを聞き、友だちと部活動をし、恋愛をし、受験をし、進学する。そんな「普通」の生活の中で、抜かりなく平均点をとることは、できるにこしたことはないですが、正直、それだけでは役に立ちません。
学校での「普通」の経験を通して身につくのは、誰かが決めた、分業された仕事をきちんとできること。それ以上でもそれ以下でもありません。
大企業に属してそのシステムのなかで仕事をした経験があったとしても、大抵は分業された仕事です。だから、地方でいきなり「事業をやってみろ」と言われると、どうしていいかわからず途方にくれることがほとんどです。
だからこそ、地域における事業で大切なのは、「ひとつでも特技があること」。
蕎麦が打てる、豆腐が作れる、建築が好きで建物をいじれる、椅子や机をつくれる、イラストを書ける……そういった平均より大きく抜き出た何かがあれば、あとは営業面での問題をクリアすればいいだけです。
経験でいえば、学生時代に300人規模のイベント開催を自分で取り仕切った、飲食店を経営していたとか、そういうことのほうが役立つのです。
ただ、採用する自治体側の人は一般的な能力を問われる経験がこれまでの人生で多かったわけなので、なかなかこの「特技」の重要性を理解できません。実際は、3年くらいの短期間でやれることが具体的にイメージできる人に来てもらうべきですね。
(3)募集側も一定の事業想定を持ち、人を探すべし
地域おこし協力隊は、受け入れ自治体側からすれば、国の税金を使ってタダで人を雇える制度なので、目的が不明瞭なままに「なんとなく」呼んでしまうことがよくあります。
もちろん、具体的な事業像を持って人材募集をしている地域もありますが、それが本当に稼げるものであることはとてもめずらしい。中には、単に地元の「お荷物施設」をどうにかしてほしいといった案件なんかもあります。
「儲からない産直施設を活性化せよ」というのは、つまり地元の人間ができないことをよその人間に丸投げしているにすぎません。
やはり、募集要件として明確に事業想定を持ち、それを担える人材を募集して、3年間でしっかり事業を軌道に乗せることで生活基盤が成立する、という目算をしてから募集したほうがいい。
――明確な事業想定ができている、というのはどんな状況でしょうか?
たとえば「空き家を確保できたから、そこをリノベーションしてゲストハウス経営をやってもらう」という事業の想定ができていれば、「建築や工務店で仕事をしたことがある人」「宿泊業の経験がある人」など、まだ具体的にイメージが定まるわけです。実際はもっと細く設定する必要があります。
「若者よ地方へ」のようなフォーカスの定まらない話をしていてはお互いに勘違いを産んで不幸になる可能性が高まるだけ。マッチングを運任せにしている現状は、明らかに好ましくありません。
(4)地域おこし協力隊業務と「地元民間メンター」との相互管理をするべし
――受け入れ側で、他に気をつけるべきことはあるのでしょうか。
地域で事業を立ち上げる際には、様々なネットワークなど人的資源が必要になります。それを、事業を立ち上げたことのない役所だけが主体となって進めるのは無理筋です。事業を立ち上げるなら、民間側で地元で事業実績がある、若くて意欲的なメンターが必要です。
こんなことを言うと、すぐに行政は地元商店街や町内会とか「なんちゃら組合」とか、「なんちゃら公社」に声をかけに行ってしまうんですが、それでは駄目なんです。すぐに失敗するでしょう。
従来だと役所に近づかないような独立独歩の人材でないとメンターは務まりません。これもまた役所にとってはハードルになるかもしれませんが、今回の小説にも書いたように、自ら市場と向き合い、小さな店をちゃんと地域の人気店にしているような経営者こそメンターとして適任なのです。
行政の担当者が普段から地域に入り込み、そのような人材との信頼関係がある場合はうまくいく可能性は上がりますが、そもそも担当者自身にあまり知り合いがいない場合は、悲惨な結末が待っています。
あとは、先に入り込んでいる協力隊同士でもよいので、担当している業務の進捗などを互いにネット上で確認していくべきでしょう。ブログで発信するのでもかまいませんが、そのあたりが見えないままだと、あっという間に時間が過ぎ3年のタイムリミットを迎えてしまいます。
時間管理をし、短い間に地元にネットワークを広げ、事業を立ち上げ、地域を活性化しながら、自分の生活基盤をも作り出すという高度なことをいきなり飛び込んで一人でやるのは容易ではありません。
協力隊員の気合と根性に頼るのではなく、彼らをしっかりと支える仕掛けがないと、せっかくの若者たちの力を生かせない。
実態はというと、受け入れ側だけではなく応募者にもこれらの問題意識がなく、ワーキングホリデー的な感覚で単に地方に行くだけ、というケースも多い印象です。
(5)集落支援業務は分離すべし
「地域おこし」という名前にもかかわらず、実態としては集落支援員(地方自治体から委嘱を受け、集落への「目配り」として、巡回、状況把握をする人員)とほぼ変わらないような業務を任されている人も少なからずいるようです。もしくは、事業立ち上げを要求されている一方、集落支援に関する業務もやらされているという中途半端な状況の人もいます。
「地域おこし協力隊」ですから、地域がおきなきゃ話にならないわけです。福祉や集落保護といった行政特有の業務とは区分した内容にしないと事業なんて立ち上げられませんし、3年後自分で自立して生活していけ、なんて土台無理な話です。
もし集落支援を中心にするのであれば、地域おこし協力隊の制度を活用しないほうがいい。それらの問題に対する集落支援員制度は別にあるわけで、ここははっきりと区分しないとダメです。
・将来の常勤雇用候補者のお試し雇用なのか
・事業を立ち上げる人材の初期スタート支援としての雇用なのか
このあたりを明確にしなければいけません。それによって職能や3年の時間の過ごし方もまったく違うのにもかかわらず、現状はそのあたりがごちゃごちゃになっています。
これらの「地方のリアル」はなかなか表に出ず、また断片的な情報だけを伝えてもなかなか解決されないため、新刊『地元がヤバい…と思ったら読む 凡人のための地域再生入門』 では物語調で、時系列に沿って、地域を再生する本当の方法を記しました。地域おこし協力隊にも一部触れていますし、地域で小さな挑戦をするときのヒントを物語に入れ込んでいますので、ぜひご一読ください。