地方は「稼ぐ視点」がないから衰退するーー。
18歳にして全国の商店街が共同出資する会社の社長に就任し、すでに20年近く地方でのビジネス分野で奮闘し、酸いも甘いも経験してきた木下斉氏はそう指摘する。
小説形式の新刊『地元がヤバい…と思ったら読む 凡人のための地域再生入門 』の発売を記念して、どうすれば地方が立ち直るか、そのヒントを語ってもらった。今回のテーマは、「地域おこし協力隊」について。

――小説中にも登場する「地域おこし協力隊」ですが、全国各地で増加しているのでしょうか。

現在、年間で5000人ほどの地域おこし協力隊がいて、今後はさらに増員し8000人程度にするという政策目標が掲げられていますね。
この小説でも、地域おこし協力隊員が地域で翻弄される姿を書きましたが、今や地域おこし協力隊員はどこにでもいて、各地でかなり奮闘しているので、触れざるを得ないな、と思って書いたところがあります。

地域おこし協力隊といえば、地域外の人材を積極的に受け入れることで、文字通り地域を「興し」、その定住・定着を図ることで、活性化を目指す制度です。ただ、人数がこれだけ一気に増加したこともあり、制度がスタートした2009年とはだいぶ様子が変わってきています。
たとえば、自治体による隊員の「獲得競争」。かつてはそれほど募集に困っている印象はありませんでしたが、最近は自治体によっては募集人数が集まらなかったりして、過去に他の地域で協力隊だった人を別の自治体があらためて採用するケースも出てきています。
そのため、自治体によっては、独自に報酬をアップさせたり、体験入隊をやったり、起業する場合には特別な予算を組んだりするなど、宣伝、集客に躍起です。

――とにかく来てくれさえすればいい、となりがちなのかもしれませんね。

でも、「何人を受け入れるか」が目的化してしまうのは意味がないんですよね。
本来、地元の問題や可能性を見極め、挑戦してほしい領域を定めてから募集し、来てもらう人にパフォーマンスを最大限発揮してもらうための制度なんですから。
だけど、自治体によっては、「他よりもサービスしますよ」とバーゲンセールのようにアピールしたり「うちは山や川や海がきれいで素晴らしい」と、どこにでもある宣伝文句を謳って業者にかっこいいポスターを作ってもらったり、と隊員獲得自体が目的になったままにコストをかけている。そりゃ、違うでしょ、と思うこともありますね(笑)。隊員が来るのはあくまでスタートにすぎませんから。

「地域おこし協力隊」が抱える根本的矛盾木下 斉
地域再生事業家
1982年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。一橋大学大学院商学研究科修士課程(経営学)修了。一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事。内閣府地域活性化伝道師。高校在学中に早稲田商店会の活動に参画し、高校三年で起業。全国各地で民間資本型の地域再生事業会社を出資経営するほか、地方政策提言ジャーナルの発行、400名以上が卒業して各地で活躍する各種教育研究事業を展開している。

今年の夏に、とある県の地域おこし協力隊の方々20名ほどとざっくばらんにお話をする機会がありました。そこでも、もともとスキルを持って移住してきているものの、そのスキルがまったく生かされずただ集落を回るだけの仕事をしている人がいたり、企画を提案しても否定されるばかりで任期が終わってしまうと言う人も結構いたりで、簡単にはいかない現実をあらためて感じたところです。
年々協力隊員の数が増加しているからこそ、いいケースもある一方、問題も多角化しているとも言えます。

――問題とは、どのようなことでしょうか。

もともと、地域おこし協力隊という制度はあくまで地方自治体に対する国の交付金措置として実行されるので地元自治体の負担はない。とはいえ、基本的には地域おこし協力隊は期限付き公務員として、常勤公務員の下に配属される形式になります。
本来なら新たな事業を興そうとする若者たちを束ね、サポートするスキルが自治体側には求められるのですが、そこがあまり考慮されずに担当者が選定されていることもあります。結果として、協力隊員も公務員的な枠組みにはめられた動きしかできなくなってしまう。

一方で、メディアではやたらと「地方で活躍する若者のサクセスストーリー」が取り上げられがちです。やる気ある若者が地方に移り住んで、いい人に恵まれて、起業して成功して、というのがもはや一種のフォーマットになっている。
もちろんそういう人もいるわけですが、それが全国で当たり前にできていれば、そもそも地域は衰退していません(笑)。

さらに複雑なのは、応募者の動機にもばらつきがあることです。
「地方をなんとかしたい」とか「地方で起業したい」という若者ももちろんいますが、都市での生活に疲れた人がワーキングホリデー的な感覚で来ているケースもそれなりにあるわけです。
だから、単に人数ばかりを追い求めて都合のいい情報ばかりを宣伝している自治体は、行ってから「話が違う」とミスマッチが起こったりする。受け入れ側、応募側双方に多様なブレがあるんです。

――結局、地域おこし協力隊で地方の問題は解決するのでしょうか?

結論からいえば、協力隊だけで解決するほど話は単純ではありません。
まず、人口問題でいえば、毎年全国で何万、何十万人が都市部に流入しているマクロ構造があるのに、国家予算をつけてたかだか数千人程度を地方へ送り込むだけでは、問題は一切解決しません。

そもそも、人口が減り続けているのだから、人の移動だけで問題を解決しようというのは土台無理なわけです。地方の人口減少はボリュームの大きい上の世代が亡くなり始めていることが大きな原因のひとつですから、数が少ない若者層が地方に移動するだけではしょうがないわけですね。

もうひとつの難しさは、常勤で務める公務員が解決できない問題を、より薄給で、かつ期限付き公務員として雇う若者に解決してもらおうという発想のおかしさにあります。
あくまで、移住してきた若者が挑戦するうえで適切なサポートをして、成功した一部が地域にもプラスになる、くらいのスタンスが適当なのに、期待値が高くなりすぎている。民間や役所が官民連携し、事業と向き合うことすらない地方に、外から若者が来てスーパーマンのごとく地元の問題を解決してくれるなんて都合のいいことは起こらないんですよね(笑)。
地元の問題は、解決しようとすればするほど、既存住民との対立が発生することもありますから。
逆に、地元の人たちが、外の人が入ってどんどんかき回すことを歓迎すれば、できることはもっとあるのではないかと思います。

結局、地域おこし協力隊が云々以前として、地元の人間がやるべきことをやらずして地元が変わるはずはないんです。そこを他力本願になっている限りはどうにもならないんじゃないでしょうか。

――では、どうしたらよいのでしょう?

各地で実際に地域おこし協力隊の方や受け入れしている自治体の方々と話してきた中で私なりに感じる、各地で一貫して取り組むべき5つの改善点があると思っています。次回は、そのあたりを語りたいと思います。