無酸素登山でも大けがゼロ
鉄人登山家に経営者が教えを乞う

 そこに加えて、小西氏が他の登山家と一線を画するのは、「がん」だ。20代後半から30代前半の間に小西氏は3度のがん手術を経験しているのだが、その合間に、ブロードピーク、ガッシャーブルムII峰という2つの8000メートル峰で無酸素登頂に成功している。こんな型破りな登山家は世界を見渡してもそういない。

 まさに「鉄人」と呼んでも差し支えないスーパークライマーなわけだが、実はこの小西氏、もうひとつの顔を持っている。それは、「危機管理のプロ」だ。

 このような過酷な挑戦を続けてきたにもかかわらず、小西氏はこれまで、山で大きなけがをしたり、凍傷で身体の一部を失ったりしていない。もちろん、エベレスト7500メートル地点で巨大雪崩に襲われるなど絶体絶命のような局面をいくつも経験しているのだが、致命的な「危機」はこれまで見事に回避してきたのだ。

 これまで数えきれないほど多くの、経験豊富な登山家たちが、山にその命や肉体の一部を奪われてきたという揺るぎない事実を考えると、これは驚くべきことではないだろうか。

 そんな小西氏の「危機管理」を学びたい。このような人々の声に応じて、小西氏はこれまで延べ数万という人々に講演やコーチングを行ってきたのだが、その中でやはり最も数が多いのが、経営者やエリートビジネスマンだったというのだ。

 自分たちに足りない「危機管理」というスキルを、これ以上ないほどわかりやすく体現してきた小西氏の言葉を介して身につけようとしていることは明白である。

 では、多くのビジネスパーソンに支持される、小西氏の「危機管理」とはいったいどのようなものか。

 先日発売された新著《生き残った人の7つの習慣――登山でもビジネスでも「危険」を回避した人は必ずこれをやっている》(山と溪谷社)の中から紹介しよう。

 同書では、小西氏がこれまで直面した危機のほか、二十数名が死亡した山小屋雪崩事故などで救出作業を行なったときの体験や、クライマー仲間たちが見舞われた悲劇を、小西氏ならではの視点で分析し、山の世界のみならずビジネスシーンでも活用できる7つのポイントを指摘している。その1つに、明日からでも実践できる危機管理がある。その中でも胸に刻んでおきたい言葉がある。

 それは、「悪魔はゴールの近くに潜んでいる」というものだ。