西照寺(石川) 投稿者:@fumi.h [10月18日]

肉は増えるが知慧は増えない

 2018年最後の連載となりました。1枚目の標語は、石川県小松市にある真宗大谷派の西照寺の掲示板からです。これはNHKのクイズバラエティ番組「チコちゃんに叱られる!」の決め台詞ですね。

 好奇心旺盛な5歳児のチコちゃんが、岡村隆史さん(ナインティナイン)ら出演者に、毎回さまざまな疑問を投げかけます。彼らが答えられないと、「ボーっと生きてんじゃね~よ!」と、チコちゃんからすごい剣幕で叱られるのです。

 この言葉は「2018ユーキャン新語・流行語大賞」のトップ10にも選ばれました。わたしも何度か観たことがありますが、答えが全然分からず、毎回自分がいかに無知であるかを痛感させられています。

 『法句経(ほっくきょう/ダンマパダ)』の中に、こんな言葉があります。

 学ぶことの少ない人は牛のように老いる。
 かれの肉は増えるがかれの知慧は増えない。
 (中村元訳『ブッダの真理のことば/感興のことば』 岩波文庫)

 前回は「犀」でしたが、今回は「牛」のたとえ話です。これも日本人には少し分かりづらいかもしれません。このブッダの言葉を借りれば、「ボーッと生きている大人」=「牛のように老いた人」と言えます。知慧が一向に増えず、忘年会シーズンで贅肉ばかりが増えてきている人たちにとっては、なかなか耳が痛い言葉ではないでしょうか。

 現在はインターネットの発達などにより、学ぶ手段が格段に増えてきています。仏教の教えもネットからかなりのことを学ぶことができます。いくつになっても遅すぎるということはありません。常にさまざまなことに興味関心をもって、謙虚に学ぶ姿勢を保ち続けたいものです。

光用寺(大阪) 投稿者:@yuzukititi [8月8日]

過去を振り返るな、未来を追い求めるな

 2枚目の掲示板は、「新大阪」駅に近い古刹、真宗佛光寺派の光用寺のものです。

 大切なことは
 かつてではなく
 これからでもなく
 ただ、今

 これが今年最後の標語のご紹介になります。多くの人が今年を省み、来年の抱負を考えていらっしゃる時期ではないでしょうか。とはいえ、過去や未来を考えている間に、今、この瞬間は過ぎ去っていきます。

 『中部経典(マッジマ・ニカーヤ)』の中に、次のような言葉があります。

 過去を振り返るな、未来を追い求めるな。
 過去となったものはすでに捨て去られたもの、
 一方、未来にあるものはいまだ到達しないもの。
 そこで、いまあるものをそれぞれについて観察し、
 左右されずに、動揺せずに、それを認知して、増大させよ。
 今日の義務をこそ熱心にせよ、明日の死を知りえる人はないのだから。
(中村元監修『原始仏典〈第7巻〉中部経典4』 春秋社)

 この連載でも何度か触れましたが、3回目でも取り上げたように、大切なのは過去でも未来でもなく、現在です。もちろん、過去の間違いから学ぶことも、将来の目標を立てることも生きる上で重要です。   

 しかし、人生がうまくいっていないときには、過去や未来の世界を心が漂うかのように、無意識のうちに現実逃避をしているものです。みなさんはそのような「ボーっとした状態」で現在を生きていませんか?
 
 生き方に関する警句をコラムやブログで発しているカート・スミスさんというカリフォルニアの精神科医がいます。彼は「集中力を保つ(stay focused)」ために重要な3つの言葉をこう記しています。

 過去を振り返るな(Don’t Look Back.)
 未来に生きるな(Don’t Live in the Future.)
 現在にとどまれ(Stay in the Present.)

 彼の言葉は、先の経典の教えにも通じるものだと思います。新しい年(2019年)をより良いものにするたった1つの方法は、現在に集中し続けることなのです。

 このことをぜひ肝に銘じていただき、どうか良いお年をお迎えください!

 ※来年、2019年1月17日(木)の19時から90分ほど、「お寺の掲示板にみる仏さまの教え」と題した講演を行う予定になっております。会場はサテライトテンプル・築地本願寺GINZAサロン(銀座2丁目6-4 竹中銀座ビルディング5階)です。この連載では未掲載の掲示板のお言葉もスライドでご紹介しながらお話いたしますので、ご都合がよろしければお越しください。

(解説/浄土真宗本願寺派僧侶 江田智昭)