お正月になるとテレビでよく時代劇が放送される。そのなかでも特に注目は、NHK正月時代劇『家康、江戸を建てる』だろう。
一方、『東大教授がおしえる やばい日本史』も20万部突破と話題だ。当初は児童書として発刊された本書だが、意外と知らない日本史の真実がウケて、大人の読者の心もがっちり掴んだ。本書でも徳川家康の“すごい”面と“やばい面”が紹介されている。2019年の注目の偉人は徳川家康か!?
そこで『家康、江戸を建てる』脚本家の八津弘幸さんと、『東大教授がおしえる やばい日本史』の監修者・東京大学史料編纂所教授の本郷和人さんの対談が実現。対談から、徳川家康や歴史の魅力はもちろん、なんと仕事の本質までもが見えてきた。(文/村山 幸)

歴史は「面白く」見てもいいものなのか?

八津弘幸(以下、八津) 本郷先生は歴史の専門家でいらっしゃいますけど、時代劇を見るときは、どんな目線なんでしょうか? 色々と気になってしまうのか、これはドラマなんだからと割り切っていらっしゃるのか……。

本郷和人(以下、本郷) もちろん、割り切ります。ドラマに史実を持ち込もうとするのは無理ですよ(笑)。

八津 そうなんですね。歴史の知識がある人にとっては、時代劇なんて見ていられないものなんじゃないかと思って。ちょっと聞いてみたかったんですよね。

本郷 ツッコミを入れ始めたら、キリがないですからね。そもそも、時代劇でいうと歩き方から違うわけです。当時の武士は右手と右足、左手と左足をそれぞれ同時に出して前に進む、いわゆる「ナンバ歩き」をしていたわけだから。でも、それをリアルに再現しても不自然になったりしちゃうでしょ。となると、時代劇と史実が違うのは、もう仕方ないことなんです。

八津 本郷先生が寛容な目線で時代劇をご覧になっていて、ほっとしました(笑)。

本郷 個人的には、時代劇やドラマ、漫画といった入り口から歴史に興味を持ってもらうことは非常に重要だと思っています。高校までに学校で習う歴史の授業は「暗記」が中心でしょう。だから、拒絶反応を示す人が多いんです。

八津 わかります(笑)。

本郷 なので、私が監修した『東大教授がおしえる やばい日本史』では、歴史に興味を持つきっかけをたくさん作れるように、ということで、とにかく面白くすることを心がけました。

八津 なるほど。大学の先生がそのような柔軟な目線をお持ちというのは、すごいですね! できるだけ史実に忠実でありつつ、面白くするというのは脚本家としては非常によくわかります。

徳川家康は壮大な夢を見る「ドリーマー」だった

本郷 ところで、NHK正月時代劇『家康、江戸を建てる』の脚本を拝見しましたが、胸を打たれる内容でした。

八津 ありがとうございます。

本郷 気になったのは、家康のキャラクターです。どうやって家康のキャラクターを造形していかれたんですか。

八津 実を言うと、僕はキャラクターを作り込んでいくのはあんまり得意じゃないんです。それより先に、出来事やストーリーを組み立ててしまう。すると自然にキャラクターが出来上がっていくというか。一方で、本郷先生の『やばい日本史』は、人間の二面性を「すごい」と「やばい」の両面から描くことによって、キャラクターの個性が掴みやすくなっていますよね。

本郷 裏と表、というのは分かりやすい切り口ですからね。それに人間って、得てして「裏」のほうが圧倒的に面白いでしょ。たとえば、徳川家康なら「戦国の世を勝ち抜き平和な江戸時代を作った」というすごいエピソードに対して「武田信玄が怖すぎてうんこをもらす」という、ちょっとかっこ悪い面を紹介している。前者だけを知るよりも、断然記憶に残りますよね。

八津 確かに、人間味を感じると、一気にキャラクターが身近に思えてきますよね。今回の脚本で僕が意識したのは、原作を踏襲しながらも、これまで思われていたのと実は違う、新しい家康像。家康は、「狡賢いたぬき」だとかってよく言われますけど、もっと純粋で「すごく壮大な夢を持っているドリーマー」だと思って書いたんです。

本郷 「ドリーマー」ですか、なるほどね。

八津 ドラマの主人公には「資質」というものがあるんです。主人公としての「力」のようなものでしょうか。『家康、江戸を建てる』の主人公は家康ではありませんが、家康のように、人を見る目があるとか、新しいことをやろうとする人は、資質としてぴったりです。さらに家康がすごいのは、「自分ひとりの力じゃ何事も成し得ない」とわかっているところ。そういう「地味なすごさ」が、このドラマでは描けたと思います。

本郷 家康って、やりたいことを実現するためには「誰を頼りにするべきか」がわかっているんですよね。単におべっかを言ってくるような奴を取り立てたりはしない。つまりは「人を見る目がある」ってことなんですが、これは織田信長、豊臣秀吉にも共通する「力」です。本当に能力がある権力者に仕えるときは、忖度せずに自分の意見をはっきり言う人が評価されます。