しかし結婚して数年、Aさんは仕事の壁にぶつかった。今まで通りにやっているつもりでも数字が伸びず、もがけばもがくほど泥の中に沈んでいくような感覚を味わった。

「毎日何度も上司から怒鳴られた。妻のことを引き合いに出されて叱責されることも多く、『仕事のできないヒモ男』や『奥さんにできてお前ができないのは恥ずかしくないのか』などと言われ続けた。

 それまであまり考えたことがなかった…ひょっとしたら考えないようにしていただけなのかもしれないが、改めて妻との差を思い知らされた。情けなく、仕事を辞めて「主夫」になろうかと本気で悩んだ。

 妻は妻なりに『仕事をバリッとしている私(Aさん)』が好きだったようで、数字を伸ばすためのアドバイスをいくつか授けてくれたが、私の営業スタイルとはまったく違うし、屈辱に感じる部分もあった。

 それも全て自分の稼ぎが妻より少なくて情けないからだと。あのころは本気で病んでいた」

 Aさんがこの「地獄」から脱却できたのは、他ならぬ妻の存在があったからだった。

「私が憔悴(しょうすい)しているのを妻は心配していて、やがて仕事のことは口に出さなくなり、『仕事で体を壊してほしくないので休職してはどうか』と提案してくれた。この時は妻の心配が伝わってきたので『こんな提案をされるなんて』とは思わず、優しさがただありがたかった。

 そのあと休職するかを検討してみて、やはり辞めるのは違うなと。いい時期もあれば悪い時期もあるのだから今は長い我慢をしなくちゃいけない時なんだと自分に言い聞かせて、仕事に精を出した。

 その後しばらく“我慢の時期”が続いたが、上司にどれだけ叱責されてもめげることはなかった。『妻と比べることなく、自分は自分のできる精一杯をやろう』と一度心底思えたからだと思う」

 やがてAさんの数字は上向いてきて、復調した。妻との差に参った経験を持つAさんだったが、それを乗り越えた彼には以前にはなかった強さが宿っているはずである。

>>(下)に続く

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