視野を広げるきっかけとなる書籍をビジネスパーソン向けに厳選し、ダイジェストにして配信する「SERENDIP(セレンディップ)」。この連載では、経営層・管理層の新たな発想のきっかけになる書籍を、SERENDIP編集部のシニア・エディターである浅羽登志也氏がベンチャー起業やその後の経営者としての経験などからレビューします。
沿線住民の生活のすみずみに行き渡る
私鉄グループのサービス
私は7年前まで、東京都西東京市に住んでいた。最寄りは西武池袋線の「ひばりヶ丘駅」。ここから毎朝電車で都心のオフィスに通勤していたのだ。
今思い出して気づいたのだが、当時は、西武鉄道の他にもさまざまな西武グループのサービスを使っていた。
近くに最寄り駅がない周辺地域や、西武新宿線やJR中央線といった違う路線の駅に移動する時には、西武バスをよく利用した。
日常の買い物は駅前の「パルコ」と「西友」。それで用が済まないときは、電車で1本の池袋に「西武百貨店」がある。
さらに、まだ子どもが小さかった頃には、「西武園ゆうえんち」や「としまえん」に連れていったものだ。映画を観たくなったら、2駅となりの「大泉学園駅」近くの「T・ジョイSEIBU大泉」というシネマコンプレックスに行く。
そして所有するクレジットカードは「セゾンカード」だ。
東浦 亮典 著
ワニブックス(ワニブックスPLUS新書)
880円(税別)
必ずしも意識していなかったのだが、日常生活のいたる場面で、私は西武グループ(「T・ジョイSEIBU大泉」は西武グループのプリンスホテルとの共同運営)の恩恵に預かっていたのだ。
西武に限らず、首都圏や関西の私鉄沿線の住人ならば、そういったケースは珍しくないのではないか。
本書『私鉄3.0』では、首都圏で人気路線を抱える東京急行電鉄株式会社(東急電鉄)のこれまでの事業の歩みをたどる。そして同社の施策や構想をベースにしながら、私鉄のビジネスがどこに向かうべきかを論じる。
著者の東浦亮典氏は、東急電鉄執行役員都市創造本部運営事業部長。1985年に東急電鉄入社後、自由が丘駅駅員、大井町線車掌研修を経て、都市開発部門に配属。新規事業開発を中心にキャリアを積んできた人物だ。
都心の主要ターミナルからは、東京郊外や埼玉県、神奈川県に向けて、実に多くの私鉄が運行されている。例えば池袋駅からは東武鉄道・西武鉄道、新宿駅から西武鉄道・京王電鉄・小田急電鉄、そして渋谷駅からは東急電鉄・京王電鉄といった具合だ。