しかも、今回の裁判では、争点の「DNA量は1.612ナノグラム/マイクロリットル」の数値の根拠を示すデータ類や残余試料等がなく、鑑定書1枚とワークシート(実験時のメモのようなシート)だけが残っていたことが明らかになった。

 その背景として、通常、DNA量を量る目的は、DNAの型判定時のプロセスにおいてDNAの濃度が必要となるからで、その量そのものが重要になることはないからだという。当該検査の担当者からは、年間に約800検体を扱う中、ルーティン作業として「データを消去し、残余資料を廃棄してしまった」という趣旨の証言があった。しかも、鑑定書作成の根拠となったワークシートは鉛筆書きで、消した跡が9ヵ所にわたって見られた。

 弁護側は「これでは、科学的証拠の再現可能性に関する疑義が十分解消されず、起訴の根拠となった数値の信頼性に乏しいと判断せざるを得ない」と見ている。

手術の麻酔による覚醒時せん妄で
病院では医療者が苦労している

 被害者の証言の信用性については、被告人弁護側は「手術時の麻酔による覚醒時せん妄、および、幻覚体験による」と主張する。

「覚醒時せん妄」とは、全身麻酔からの覚醒時、興奮状態に陥ることで、興奮したり、泣いたり、のたうちまわったりすることがあり、病院では日常的に起きている。特に、「乳房手術、開腹手術、長時間手術は危険因子になりやすい」と文献で報告される(覚醒時せん妄を含む、せん妄全般についての記事は『入院中に家族が認知症かもと疑う「意外な症状」の正体』を参照)。