「あの時代、蛇頭に密航の手引きを頼むと、だいたい200万円の手数料を取られた。前金として100万円、密航が成功したらさらに100万円。しかし、当時の中国で200万円と言ったら都会で10年、田舎なら20年は楽に暮らせたほどの金額です。密航者たちは、親戚中からカネをかき集めて日本を目指した。日本で数千万稼いで国に帰れば、大きな家が建ち、その後数十年間は安泰の暮らしを送ることができる。当時の貧しい中国人にとっては、命の危険を冒してでも密入国をはかる価値があったんです」

 カネを求めてさまざまな犯罪に手を染めていたのは、密入国者ばかりではない。普通の留学生たちの中にもブラック、あるいはグレーな仕事に手を染める者が少なくなかった。

「一番多かったのは窃盗団。あとは偽造カード、エステ緊縛強盗、ATM破壊盗、それから違法風俗。カネで揉めての傷害、殺人。それと、90年代の中国系社会で大流行した揺頭丸などの違法薬物、覚せい剤。ITなどなかった時代ですから、ある意味分かりやすい犯罪のオンパレードでしたね」

「同じ中国人を警察に売るのか!」
脅し、懇願、涙…何でもありの取調室

 中国語と日本語ができれば、誰でも司法通訳が務まるわけではない。相手は犯罪者にして“同胞”。取調室では人間としての“総合力”が問われるのだと周氏は言う。

「中国人の容疑者たちは、私が中国人だと知ると最初は安心感を覚えるのか、『刑事にうまいこと言ってくれよ』とか『捜査状況を教えてくれたら後でお礼をする』とか、さまざまな誘いをかけてきます。でも、司法通訳として刑事たちの信頼を得るには、常に中立的態度が求められるんです。私が毅然とした態度で彼らの誘いを断ると、今度は一転、『お前、同胞を裏切るのか。売国奴め』などと罵詈雑言を浴びせてくる者も。そういう意味では重圧はありましたね」

 裏切り者と思われたら容疑者は沈黙してしまうこともある。そうなっては困るので、周氏はよく容疑者にこう語りかけたという。