大学進学と就職を同一視する
「あり得ない前提」は見直すべき

 桜井さんは、生活保護世帯の子どもが高校卒業後に「大学などに就学できるなら就労を」と求められる現状の“まやかし”を指摘する。

「今は働けない光さんは、専門学校で学ぶことで道が開ける可能性だってあります。働くことと学ぶことは、同じ重みでどちらかを迫られるような選択肢ではありません。それなのに『就労→就学』のように見立てて、『就学できるのなら、就労できるはずだから』と一律に進学を認めないのは、貧困世帯の子どもを『自立』させず『貧困』のままに封じ込めるような運用です」(桜井さん)

 文科省統計では大学などへの進学率(浪人含む)は80%に達している。1970年、高校進学率が80%に達したことから、生活保護での高校進学が認められた。なぜ今、大学進学を認めないのだろうか。

「高等教育機関の一般進学率は、2014年には80%に達していますが、厚労省はわざわざ現役生のみの現役進学率を用いて『進学率はまだ70%程度で、80%に達していない』と一般世帯との均衡を持ち出し、世帯分離を止めようとしません」(桜井さん)

「ここ数年、国会でも議論された結果、国は生活保護世帯の高校生のアルバイト代や奨学金を大学進学のための学習塾費・受験料・入学金などに使えるよう運用を改めました。また、進学準備金の支給を認める法改正もされました。もう一歩進めることに、躊躇する必要はないはずです」(小久保さん)

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 桜井さんは、「良かった」と喜ぶ筆者に釘を刺す。

「今回の裁決は、M市の調査不足を理由に『不当』として、『充分な調査をするように』と求めた内容です。M市の決定は、いったんは取り消しになりましたが、その後、入念な調査が行われ、再度、世帯分離という決定がなされる可能性もないとは言い切れません」(桜井さん)

 役所の意地と執念深さは、忘れてはならない。国立大学の学費の値上げや、学生支援機構奨学金からの保証料徴収など、逆行する動きも続いている。

 それでも、今回の大阪府裁決は一筋の光明をもたらしたのではないだろうか。生活保護世帯は、「一般低所得世帯との均衡」という謎の決めゼリフによって、数多くの機会を奪われてきた。その歴史の転換点となることを、心から願う。

(フリーランス・ライター みわよしこ)