神保 この本のせいで情報提供者が被害を受けないように、いろいろ配慮をして書いたということですか。

ロバーツ もちろんです。記者が配慮を欠いた取材を行ったために、企業側が口を開かなくなったという例はざらにあります。ジャーナリストはもっと慎重に行動すべきだと思います。取材する側も、される側も人なのですから、誰かが企業の内情を暴露するようなことを話してくれた場合、それが意図的だったか偶然だったかにかかわらず、私はいつでもそれを匿名にすることを認めています。企業がジャーナリストを全く信じなくなり、一切の取材に応じなくなったら、何もできませんから。これからそのテーマを取材する人のためにも、ジャーナリストは慎重に行動するべきです。

オーガニック農業は一つの挑戦であり、
間違いなく新しいシステムの重要な一部である

神保 今回あなたが取材をした中で、もっとも頑なで防御的だったのは誰でしたか。

ロバーツ 米国の食肉メーカーは一切取材に応じようとしませんでした。彼らは本当に懲りていましたからね。米国政府の農務省の役人も、取材には消極的でした。米国政府は南米各国の構造改革を熱心に推進してきましたが、その政策が多くの批判を浴びたため、それ以来取材には後ろ向きになってしまいました。当時のジョージ・W・ブッシュ政権は、その政策の正しさを信じ込んでいて、断固としてこれを推進すべきだと考えていましたから。

 面白いのは、モンサントがいい例ですが、オーガニック(有機栽培)や環境問題の話になると、とたんにイデオロギー色が前面に出てくるのです。自分たちは世界を救っているのだと心の底から信じ込んでいて、いっさいの疑念を認めようとしません。モンサントの社員に持続可能な開発やオーガニックについて質問をすると、彼らはそれだけで憤慨します。その質問が、自分たちのビジネスモデルに対する批判だと受け止めるからです。こっちにはまったくそのつもりがなかったので、やや面食らいました。

 しかしオーガニック農業の支持者のなかにも、モンサントの社員と同じように攻撃的で、正しい道は一つしかないと思い込んでいる人が多くいました。いまやオーガニック自体が一つの産業になりつつありますが、それがオーガニックだからという理由で批判することはできません。オーガニックは一つの挑戦であり、間違いなく新しいシステムの重要な一部です。ただし、それがいつの間にか従来のシステムと同じようなものになってしまうこともありえます。

 オーガニックは単に化学肥料の利用を抑えるということではありません。食べ物の生産に関する新しい思考方法なのです。それが大きな挑戦であるのは、食経済ではどうしても効率性が問われるからです。私たちは常に最小の投入で最大の産出を得ようとしてきました。この枠組みのなかで持続可能性について考えようとすると、とても難しい問題にぶち当たります。だからこそこれは大きな挑戦なのです。