アメリカの食品会社は、なぜこれほどまでに
警戒心が強く、被害妄想を抱いているのか

ロバーツ 腹を立てた人がいるのは間違いありませんが、基本的にはこの本がバランスのとれた記述を心がけていること、業界の短所と同じように長所も紹介していることは、業界関係者であれば誰もが認めるところだと思います。

 もし、もう私には話さないという人がいても、それはその人の自由です。ただし大半の大手の食品メーカーは、これからもメディアとはうまくつきあっていかなければならないこともわかっているので、向こうからは関係を壊そうとはしてこないと思います。

「あの著者には頭にきたからもう二度とジャーナリストに話はしない」というわけにいかないのです。一人のジャーナリストが死んだ後も食品メーカーは生き続けなければならないわけですから、彼らも長期的な視点に立たなければならないことは十分自覚しているはずです。

神保 食品産業などの関係者に自社の事業のマイナス面を語ってもらうのは難しかったですか。

ロバーツ 難しい場合もありましたが、面白いことにネスレなどのメーカーは積極的に話してくれました。彼らは自分の会社に強い誇りをもち、自分たちの事業は人類に大きな利益をもたらすと考えていて、そのことに疑いを抱いていないので、私が問題だと思うことでも、誇らしげに話してくれるのです。ただし、それはヨーロッパの会社の話です。

 アメリカの食品会社はどこも警戒心が強く、極端な被害妄想を抱いていますが、それも仕方ないことです。例の『ファストフードが世界を食いつくす』で、騙されたと思っている食品メーカーは少なくありません。食肉加工大手のタイソン・フーズは、この本の著者のエリック・シュローサーが、彼らを騙して取材をしたと主張しています。真相は誰にもわかりませんが、行き違いがあったのは確かなようです。それと比べると、欧州の企業はもっとオープンでした。

 企業に取材に行くと、なかには取材対応に慣れていないせいか、喋ってはいけないことまで不用意に喋ってしまう社員がいます。訊かれれば何でも答えてしまうんです。しかし、そのような場合、ジャーナリストとしては慎重に行動すべきです。慣れない社員の無防備さにつけ込む取材はフェアではありませんからね。不用意に質問に答えたために会社をクビになることだってあり得るわけです。インタビューは幹部が受けますが、工場を案内してくれるのは幹部ではない若い社員の場合が多いので、彼らが不当にとばっちりを受けないような配慮は必要です。