業界関係者の警戒心は強く、半ば諦めかけたとき
一人の業者が偽装肉の作り方など肉加工のすべてを話してくれた

神保 それだけの大量の情報を1冊の本にまとめるうえで、一番苦労した点は何でしたか。

ロバーツ 専門家ではない普通の人々、つまり関心はあるし教育も受けているけど食のシステムについてはあまり知らない読者に対して、食べ物がどのように作られ、加工され、輸送されているのか、それが人の体や環境にどう影響しているのかといった幅広い知識をいかに提供すべきか、でしょうか。

 これらの分野をきちんと説明したうえで、一定の結論を示しながらも不必要に押し付けないようにする。その点にも苦労しました。そのためには絶妙なバランスが必要でした。放っておくとついついたくさんの情報を詰め込みたくなるのですが、ときにはその衝動を抑えることも必要です。

 また、食システムの現状について話してくれる業界関係者を見つけるのは難しかったですね。彼らはとても警戒心が強いのです。神保さんもよくご存じのエリック・シュローサーによる『ファストフードが世界を食いつくす』(草思社刊、原題:Fast Food Nation)は食品業界を激怒させました。

 取材で騙されたと感じた業界関係者は、ジャーナリストに口を閉ざすようになりました。こういう人々に録音機器を前に食の安全について語らせるのは、とても難しかった。彼らの多くは、もうジャーナリストには何を言っても無駄だと感じているからです。

 食のシステムは100年前に比べればずっと安全になっているのですが、にもかかわらず一部のジャーナリストが一面的な偏った報道を行ったために、取材が難しくなってしまったのです。

 フランスで、肉の加工について話してくれる業界関係者を見つけるのが難しく、半ば諦めかけているところで、一人の人を見つけることができました。名前は明かせませんでしたが、偽装肉の作り方など肉加工のすべてを話してくれたのです。とても興味深い話が多く、そんな話まで聞けるとは思っていなかったので、とても幸運でした。

神保 この本は、ある意味で食品業界の現状を強く批判している面もあります。そのような本を出すことで、せっかく信頼関係に基づいて築き上げてきた食品業界関係者との良好な関係が断たれることは心配しませんでしたか。