「1秒単位」で消費者の心が離れていく時代。

だからこそ、PR動画も、プレゼンも、文章も営業トークも、「1秒でつかみ、1秒も飽きさせない」ことが売上に直結する。あらゆる商品のマーケティングや企業の競争戦略においても、「消費者の心をつかんで離さないストーリー作り」が欠かせない時代になったと言われて久しい。

では、「人の心をつかんで離さないストーリー」とは、どうやって作ればいいのか?

本記事では、視聴者が誰も知らない完全な「市井の人」(=素人)を主役にするドキュメンタリー番組『家、ついて行ってイイですか?』の仕掛け人であり、ストーリーテリングの名手であるテレビ東京制作局ディレクターの高橋弘樹氏が、新刊『1秒でつかむ「見たことないおもしろさ」で最後まで飽きさせない32の技術』の内容をベースに、ストーリー作りにおいてもっとも大切なことをお伝えしていく(構成:編集部・今野良介)。

『家、ついて行ってイイですか?』はストーリーテリングの勝負

あたりまえのことをいいます。
しかし、「ストーリー」を作る上で、とても大切な3つのポイントです。

(1)人の心は見えない
(2)取材者とその受け手には、情報格差がある
(3)そもそも受け手はそんなもん知ろうと思ってない

これを意識するかしないかだけで、「ストーリー」の質は大きく変わります。

(2)でいう「取材者」は、テレビではディレクター、他の業種で言えば、製品の魅力を引き出すPRプランナーや、その魅力をプレゼンする営業担当者など、あらゆる業種で、商品・サービスの魅力を「ストーリー化」して伝える人のことです。

「受け手」は、テレビなら視聴者。その他の業種の場合、BtoBの分野ならクライアント、BtoCの分野なら消費者すべてです。

エンターテインメントや、ビジネスにおける表現は必ず、「誰かに見てもらいたい」という目的を前提としています。どの業種でも、構造はまったく同じです。

ぼくが企画し、作っている『家、ついて行ってイイですか?』は、街を歩いているフツーの市井の人の家を見せてもらって、人生ドラマをひもとく番組です。有名人でもないし、とりたててルックスの魅力が群をぬいているとか、そういう特殊性を持っていない人がほとんどです。

では、なぜ、それが「番組」として成立するのか。それは、その人が持っている人生ドラマ(=ストーリー)を見出し、それを「可視化」するからです。

順番に説明していきます。

(1)人の心は見えない

たとえば、こういうシーンを想像してみてください。
よりおすすめなのは、実際にやってみてください。

あなたは、喫茶店にいます。やや離れた席にいる人を、変態と思われないように、気づかれないように、コソッと、10秒だけ、見てみてください。

……。

おそらく、はじめは何も感じないでしょう。

では、次にその人を、もう変態と思われるのを覚悟で、でもできる限りバレないように、3分間、観察してみてください。

 

………………………………………………………………。

 

どうでしょう。

じつに、さまざまな表情の変化があったのではないでしょうか?

パソコンの中身は見えないけれど、ずいぶん悩ましい顔をしたと思ったら、笑顔になったり。また真剣な顔になったまましばらくそのままだと思ったら、深く息を吸い込んで「フー」と顔を上に45度ほど上げて、勢いよく息を吹いたり。

人間に関するストーリーを描こうとするなら、この表情の変化が大好物になるのが近道です。

・なぜ、真剣な顔なのか?
・なぜ、ため息をついたのか?
・なぜ、笑顔なのか?
・なぜ、怒っているのか?

そうした、表情の変化には、すべて理由があります。しかし、その理由を知っているのは「その人の脳みそ」だけです。外からは見えない。

表情だけではありません。

・行動している時間 ・服装 ・発した言葉
・恋愛観 ・食事の内容 ・職業 ・年齢

それらすべてが、意味を持っている可能性があります。

受け手が「画」を想像できるように

たとえば、「夜中に富士そばを食べている人」がいたとします。

もう少し詳しく見てみると、

・真夜中の1時に
・アイロンがしっかりかかったストライプのスーツで
・「はぁ」とため息をつきながら
・10歳以上、年上に見える恋人と
・新橋の富士そばでカツ丼セットを食べる
・りそな銀行の胸バッジをつけた30代前半の男

こんな感じだったとします。

その行動や服装など、彼がまとった外に見える情報は、脳の何らかの作用の結果のアウトプットです。その一つひとつが、ストーリーの大切なヒントに他なりません。

でも、それが「なぜ?」なのかはわからない。

まずはこれを強く認識した上で、次の3つのステップで掘り下げていくのです。

 (1)他の人が五感で認識することができる、外に発せられている情報に「気づく」こと。

これがスタート地点。テレビなら、それを「映像」として撮影することが第一の「可視化」です。

(2)それが「なぜ?」そうであるのかを、言葉で引き出すこと。

これが第二地点。これはインタビューであることが多い。つまり「言語化」です。

 (3)そして第三地点が、(2)で「言語化」されたものを、誰でも頭でビジュアルが浮かぶように「可視化」の次元にまで引き上げること。

これは、写真などで補足するなどの直接的な手法と、情景が浮かぶほど具体的な言葉で「言語化」の精度をあげ、「擬似的な可視化」を狙う場合があります。これが第2の「可視化」です。

だから、ぼくは常々、「受け手が『画』を想像できるようにコメントを引き出してください」と、後輩のディレクターにお願いしてします。

この3つが、ストーリー作りをする上で、もっとも重要・かつ基本的な流れです。

そして、(1)の「気づき」から(2)「なぜ?」の間で大切になるのが、「仮説」をたてること。「なぜ、そういう行為の表出に至っているのか?」を想像することです。

これは、実際にやってみましょう。

・真夜中の1時に
・アイロンがしっかりかかったストライプのスーツで
・「はぁ」とため息をつきながら
・10歳以上、年上に見える恋人と
・新橋の富士そばでカツ丼セットを食べる
・りそな銀行の胸バッジをつけた30代前半の男

さて、彼はどんな人なんでしょうか?

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ちょっと、ぼくの仮説を書いてみます。