昨年末、大阪メトロが発表した、駅のリニューアルデザイン案に、浪速っ子から大ブーイングが起きている。奇抜なデザインにも驚かされるが、すでに市営地下鉄時代に改装工事に着手している梅田駅、中津駅などのデザインを再変更するなど、経営判断の観点からも摩訶不思議である。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)
「安っぽくて派手で悪趣味」
浪速っ子がNOを突きつけた
年の瀬も押し迫った12月20日、大阪メトロが突如発表した計画は、府民だけでなく日本全体に大きな衝撃を与えた。
昨年4月に誕生した大阪メトロは、同年7月に発表した中期経営計画の中で「鉄道を核にした生活まちづくり企業」への変革を目標に掲げ、地下空間の価値最大化をうたっていた。今回の発表は「活力インフラプロジェクト」と題して、その具体ビジョンを示したもので、御堂筋線はビジネス、中央線はエンターテインメントの強化をテーマに地下空間の活用を進め、駅のデザインもそれぞれの特徴を出した「多様性」あるものに改装していくという内容だ。
しかし、人々に衝撃を与えたのは、交通局時代とは様変わりした積極的な経営姿勢ではなく、公表された各駅のデザインコンセプトとリニューアル後のイメージ図であった。
提示されたデザインコンセプトは、中津駅の「プレゼンテーション」や本町駅の「クロスオーバー・ポイント」などイメージを共有しにくいものや、淀屋橋駅の「歴史」や天王寺駅の「空」など漠然としたものが多く、完成イメージ図についても、心斎橋駅の「テキスタイル」や堺筋本町駅「船場町人文化」のように、ステレオタイプにまみれた意匠を壁や天井にベタベタと張り付けたような、むしろ「多様性」に反する空間になっていたのだから大騒ぎである。
立命館大学教授の岸政彦さんと作家の柴崎友香さんは、リニューアル案は「私たちが慣れ親しんだ、あのレトロな、かわいらしい、落ち着きのある大阪の地下鉄の駅とは懸け離れた、安っぽい、派手な、悪趣味な、そして駅のある場所とはむしろつながりの薄いデザイン」であるとして、インターネット上で反対署名を開始。12月22日から25日まで、わずか3日間で2万人近い署名が集まった。
批判の広がりに慌てた大阪メトロは、1週間後の12月27日に急きょコメントを発表。あくまで現段階のイメージであり、デザイン案を具体化していく過程で、利用者・地域の意見をふまえてブラッシュアップしていくとして、火消しに努めた。