今年4月に民営化した大阪市高速電気軌道(大阪メトロ)。同社が発表した中期経営計画を元に、大阪メトロの現状と課題を分析した。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)

大阪メトロ民営化で
「脱鉄道」に注目が集まる理由

4月に民営化した大阪メトロ鉄道事業以外の収益が増えれば民営化は成功、と考える向きが多いが、やみくもな拡大戦略では意味がない。望ましい「脱鉄道」の方向性とは―― Photo:PIXTA

 今年4月1日に大阪市営地下鉄から民営化した大阪メトロが、2024年度を最終年度とする初めての中期経営計画を発表した。

 大阪メトログループは、大阪メトロ、大阪シティバス(旧市営バス)、大阪地下街、大阪メトロサービスで構成されるが、市営地下鉄時代は関連事業への進出が制限されていたこともあり、大阪メトロ単体でグループ売り上げのほとんどを占める鉄道偏重の体質である。

 阪急電鉄や東急電鉄を代表とする日本型私鉄経営の最大の特徴は、鉄道を軸とした関連事業の多角化にある。沿線に住宅地を開発し、スーパーマーケットを展開。始点にはターミナルデパート、終点には観光・レジャー施設を設け、鉄道輸送だけでなくライフスタイル全体をビジネスモデルに取り込んでいる。

 そのため、JRや東京メトロなど鉄道会社民営化においても、「脱鉄道」が成功を測る尺度であると考えられがちだ。それまで殺風景だった駅構内に店舗が並ぶと、資産の有効活用が進み、ようやく収益力が上がってきたと評価される。

 大阪メトロに関しても、新聞、経済誌には「脱鉄道を進められるか」といった論調の記事が並んでおり、大阪メトロ自身も「脱鉄道」の方向性を印象付けようとしている。

 民営化前の2017年度営業成績を民営ベースの連結決算に換算すると、鉄道事業以外が占める割合は連結売上高1826億円のうち17%、連結営業利益401億円のうち24%だ。これを2024年度に連結売上高で27%、連結営業利益で33%まで引き上げたいとした。

 そのために大阪メトロは「鉄道を核にした生活まちづくり企業へ変革」することを打ち出し、鉄道以外の新たな柱となる事業の創出を目指していく。まず駅ナカ・地下街の開発や、新たな広告媒体の展開により既存の地下空間の価値を最大化し、次いで沿線に商業施設を拡大。さらに森之宮や夢洲(ゆめしま)の都市開発事業に参入するとしている。

 地下鉄民営化の先行事例として比較されるのは、帝都高速度交通営団(営団地下鉄)から改組された東京メトロだ。東京メトロの2004年度決算を見てみると、連結売上高は3526億円で鉄道事業以外が占める割合は14%、連結営業利益は695億円で同9%だから、一見すると大阪メトロは、民営化当初の東京メトロよりも関連事業展開が進んでいるように見える。

 しかし、ここには数字のマジックがある。大阪メトロが中期経営計画の資料上に示した「鉄道事業」の売上高には、きっぷや定期券の売り上げにあたる旅客運輸収入しか計上されていないのだ。