昼休みに多田と会社近くの喫茶店で待ち合わせすると、細山は気になっていたことを多田に話した。

「実はこの間話していた営業部の経費の件なんだけどさ。営業部では飲み会の幹事はほとんど永井部長がやっているんだ」
「え?部長が幹事をやるのか?」

 細山は、姫野との会話を多田に話すと、「部長がそんなことをするとは思えないけど、なんか気になってさ」とため息をついた。さらに細山は多田に思いを打ち明けた。

「経理課の方で調べられるかなって思って…」

 多田は「うーん」と腕組みをすると、「わかった。上司に相談してみるよ」と細山に言った。

総務から営業に突然の通達
「全員、経理部のヒアリングを受けよ」

 1ヵ月ほど経った頃、総務部から営業部に突然、通達された。それは営業部のメンバー全員に対し、不正な経費申請をしている可能性があるため、経理のヒアリングを受けるようにという内容だった。なぜなら多田が細山と話した後に、経費申請を再度調べ、上司にヒアリングするように相談、調査を実施することが決まったからである。

 営業部のメンバーは、突然のことに戸惑いながらも、何も後ろめたいことはないだろうと、正直に話した。ヒアリングの結果、やはり永井部長が参加者から会費を集め、会計時にもらった領収書を経理に提出、不正に経費を請求していたことが判明した。

 処分を検討するため、今度は人事が永井部長本人を呼び出した。証拠書類を突き付けられた永井部長は、しばらく黙っていたが、観念したように「申し訳ありませんでした」と頭を下げた。そして、経費の不正請求に至った経緯を次のように話した。

 永井部長は2年ほど前にFX(外国為替証拠金取引)で大損し、それが妻にバレて離婚の危機になった。永井部長は妻に「何とか取り戻すから」と言って離婚を回避したものの、損失分を取り戻すまでには程遠かった。次第に妻から責められるようになり、経費の不正請求という方法を思いついたそうだ。