量子コンピュータが私たちの未来を変える日は実はすぐそこまで来ている。
そんな今だからこそ、量子コンピュータについて知ることには大きな意味がある。単なる専門技術ではなく、これからの世界を理解し、自らの立場でどう関わるかを考えるための「新しい教養」だ。
『教養としての量子コンピュータ』では、最前線で研究を牽引する大阪大学教授の藤井啓祐氏が、物理学、情報科学、ビジネスの視点から、量子コンピュータをわかりやすく、かつ面白く伝えている。今回は量子コンピュータ企業について抜粋してお届けする。
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乱高下する株価
上場を果たした量子コンピュータ企業の株価は、市場の雰囲気に影響され乱高下している。
アメリカのリゲッティ・コンピューティング社(Rigetti Computing)は、2023年には従業員の削減や創業者CEOの退任といった困難が相次ぎ、株価が1ドルを下回り、上場廃止が囁かれるような時期があった。
しかし、長期的なロードマップの発表に加え、量子エラー訂正用の制御装置に強みを持つイギリスのリバーレーン社(Riverlane)やエヌビディアとの協業の開始、さらにイギリスの国立量子コンピューターセンター(NQCC)から超伝導量子コンピュータの調達を実現するなど、複数の取り組みが進められた。
その結果、株価は回復し、一時は20ドルを超える水準にまで上昇した。
また、量子分野のパイオニアであるディー・ウェイブ社(D-Wave)も2024年は長らく株価の低迷が続き、一時は1ドルを下回るなど上場廃止の危機に直面していた。
しかし、2024年後半には、ディー・ウェイブ社独自の「量子超越」に関する発表や、量子コンピュータを用いたブロックチェーンシステムの構築などが評価され、株価は徐々に回復しつつある。
単純な計算ができない?
さらに、量子スタートアップとしては初期に上場したイオンキュー社(IonQ)は、短期的な投資を目的とする投資家に「量子コンピュータは1+1すら正確に計算できない」と批判され、空売りの対象となるなど株価がしていた。
たしかに、古典コンピュータが得意とするビット列の足し算や掛け算は、現時点の量子コンピュータでは必ずしも得意とはいえない。
しかし、そもそもこうした基本的な計算に量子コンピュータを使おうと考えている専門家はほとんどいない。
近い将来に期待されている用途は、量子系のシミュレーションのように、量子コンピュータが本来の強みを発揮できるタスクであるという認識が一般的だ。
2023年末頃からは、イオンキュー社の株価も困難を乗り越え、再び上昇傾向を見せている。
これは、先述したアメリカ空軍との契約などの影響もあるだろう。
(本稿は『教養としての量子コンピュータ』から一部抜粋・編集したものです。)





