「おもしろい!」と思われたら、一気にシェアされバズる時代。それは裏を返せば、どんなに時間をかけて作った動画も、広告も、文章も、ほんの少しでも「つまんない」と思われたら、消費者は離れていくシビアな時代。
そこで、もっとも気をつけたいことの1つは、コンテンツを「わかりにくくしない」こと。
本記事では、視聴者が誰も知らない完全な「市井の人」(=素人)を主役にするドキュメンタリー番組『家、ついて行ってイイですか?』の仕掛け人であり、ストーリーテリングの名手であるテレビ東京制作局ディレクターの高橋弘樹氏が、新刊『1秒でつかむ「見たことないおもしろさ」で最後まで飽きさせない32の技術』の内容をベースに、「わかりにくさ」を消す方法をお伝えしていく(構成:編集部・今野良介)。
突然ですが、
拙著『1秒でつかむ』の、とある巨大ネット書店の「出版社からのコメント」の一番最後で、
「ドラゴンボールのフリーザ編で、ナメック星の最長老がクリリンの潜在能力を最大限まで引き出したように」
という比喩を、あえて使っています。
こういう表現には注意が必要です。
ストーリーが展開していく上では、受け手の知らない「言葉」や「状況」が生まれていないか、細心の注意を払う必要があります。そのためには、徹底的に「受け手」と「自分」の分析が必要です。
業界誌や趣味の雑誌、社内報のように、ある程度受け手に共通知識がある場合はあまり気を使わなくていいかもしれませんが、「マス」であることを狙えば狙うほど、注意です。
さて、「ナメック星の最長老」のくだり。
この表現を見て、「は?」と思い、イラッとする方がいるかもしれません。
少年漫画『ドラゴンボール』は、現在30代後半であるぼくの世代にとっては超メジャーな漫画ですから、「クリリンが最長老に潜在能力を引き出してもらう光景」をパッと思い浮かべることができる方が多いと思います。
しかし、女性読者や、それより上の世代、さらには下の世代は、「は?」っていう感じになる可能性が高い。
こうした「は?」が1つだけではなく、いくつも重なっていくと、「なんか、よくわからなそうだからいいや」となります。
たとえば、『1秒でつかむ』という書籍では、『大いなる沈黙へ』という、おそらくほとんどの人が観ていないだろう、わけのわからないドキュメンタリー番組や、地上波テレビでも『セカンドバージン』といったドラマにはなるべく簡単に説明をつけています。ドラマは、基本的に放送時期が限られているため、広く共通認識になりにくいからです。
しかし、同じく本書に何度か登場する「富士そば」には説明はつけませんでしたし、バラエティ番組に関してもあまりつけませんでした。「富士そば」は、首都圏に来たことがある人なら多くの人が知っているでしょうし、バラエティ番組はドラマに比べ長期間オンエアしているため、認知度が比較的高いからです。あるいは認知度が低くても、『DOCUMENTARY of AKB48』という、明らかにタイトルを読めば「AKB48のドキュメンタリーだ」とわかるようなものにも説明はつけませんでした。
このように、すべての瞬間において、「受け手の心の動き」を推測して、「わからないからいいや」と置いていってしまうようなことはないか、と考え続けるのです。
当然、どれだけ考えたとしても、受け手の年齢・教育水準・性別・地理的広がりなどの要件を想定しながら出した結論だとしても、すべての人を網羅するのは不可能です。
しかし、なるべくそのさまざまな要件を満たす最大公約数を目指しつつ、一方で説明がうっとうしくなりすぎないかという別のベクトルの「心の動きの推測」との不断の比較考量作業こそが、コンテンツをより魅力的なものにするのです。
普段、観ていていただいているときは、視聴者のみなさんは、一向にそんなこと気にしていただかなくていいですし、むしろ意識させないほどの自然さで行えてこそプロなのですが、ちゃんとしたテレビ番組は、この不断の選択がワンシーン、ワンシーンごとに行われているはずです。
ゆるそうに見えて、実は相当に「筋肉質」。
これが理想だと思います。