世の中には、生涯で本を5冊も読まない人が大勢います。
「購入された書籍全体の95%が読了されていない」のです。
でも、途中まで読もうとしただけでも、まだマシです。
「購入された書籍全体の70%は、一度も開かれることがない」のですから。
「最初から最後まで頑張って読む」「途中であきらめない」
こんな漠然とした考え方は、今すぐ捨ててしまって結構です。
これから紹介する1冊読み切る読書術さえ身につければ!

未知のジャンルと偶然出会う本の選び方

カバー(表紙)が気に入ったら買ってみよう

明治大学文学部教授・齋藤孝氏齋藤 孝(さいとう・たかし)
1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大学大学院教育学研究科博士課程を経て、明治大学文学部教授。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。ベストセラー著作家、文化人として多くのメディアに登場。著書に『声に出して読みたい日本語』(草思社文庫、毎日出版文化賞特別賞受賞)、『身体感覚を取り戻す』(NHKブックス、新潮学芸賞受賞)、『雑談力が上がる話し方』(ダイヤモンド社)、『大人の語彙力ノート』(SBクリエイティブ)など多数。<写真:読売新聞/アフロ>

前回は、本選びに迷ったらとりあえずベストセラーを読んで雑談のネタにすることをおすすめしました。

本やCDのカバー(表紙)が気に入ったから買うことを、
俗に“ジャケ買い”(ジャケット買い)といいます。
これも真っ当な選択肢の1つです。

なぜなら、未知のジャンルと偶然出会うきっかけになり、
自分の好奇心の範囲を広げられるからです。

2007年のことですが、
太宰治の『人間失格』(集英社文庫)のカバーを『DEATHNOTE』(集英社)の漫画家・小畑健さんのイラストで飾ったところ、
その年の3ヵ月だけで10万部を突破するという異例のヒットを記録したことがありました。

当時、教え子たちに「このカバーの本を買った人いる?」と尋ねたら、
予想以上に多くの学生が手を挙げたので、驚かされたのを覚えています。

作品に引きずり込む力

『人間失格』は、著者が没後50年を超えているため著作権が切れており、
「青空文庫」(https://www.aozora.gr.jp/)という著作権が消滅した作品を無料で読めるサイトに収録されています。
つまり、お金を払って文庫を買わなくても、無料で読むことができる作品なのです。

『人間失格』は集英社とは別の出版社からも刊行されていて、
すでに1冊持っていたにもかかわらず、もう1冊買った学生もいました。
さらに『人間失格』にも太宰にも、
まったく興味がないという学生も買っていたのです。

これは小畑さんのカバーイラストの力以外のなにものでもありません。

小畑さんが描いたカバーイラストには、
『DEATHNOTE』の主人公を思わせる学生服姿の男子が、
不敵な笑みを浮かべて座っています。
『人間失格』の主人公の暗さ、悪さといった世界観が絶妙に表現されているのです。
これが読者の脳裏に強烈に焼きつき、作品に引きずり込む力を持っています。

「挿し絵」で本を選んでみる

カバーのビジュアルだけでなく、本文に掲載されている「挿し絵」も重要です。

文字だけの本を読んでいると、途中で疲れてしまうことがあります。
文章から場面などのビジュアルを想像するため、
脳のエネルギーを消耗するからです。

ところが挿し絵があると、想像力の助けになってくれます。
かつての「少年少女世界文学全集」のようなシリーズものには、
絶妙にイメージの湧く挿し絵が載っていました。
挿し絵とともにストーリーを思い出すという人もたくさんいるくらいです。

「創元推理文庫」の江戸川乱歩シリーズは、挿し絵がいい味を出しています。

「このイラスト、なんか味わいあるなあ」
「挿し絵を見るだけで癒される」

そんな理由で本を手に取ってみるのは、なんら邪道ではありません。
必然的に最後まで読み切る確率も高くなります。