暗記や反復によって知識やスキルを習得することをメインに据えてきた日本の教育。しかし、世の中が急速に変化し、未来が予測不可能な現代においては、こうした教育はもはや有効とはいえない。そこで、急速に変化する外部環境に対応すべく、学生自らが能動的に学び、成長することを促進する教育、「学習学」の重要性を説くのが、成人教育学博士でNPO学習学協会代表理事の本間正人先生だ。本間先生は、インターネットが発達し、eラーニングの導入が可能になった今こそ、教育が大きく変化するチャンスだと語る。もしeラーニングが導入されれば、日本の教育はどう変わることになるだろうか。

日本の教育は子どもから
「自ら学ぶ意欲」を奪った

石黒 私はアメリカの大学院で学び、子どももアメリカの教育を受ける中で、日米の教育の違いを感じ、ずっと日本の教育に疑問を抱き続けてきました。先生は、日本の教育のどのような点が問題だとお考えですか?

記憶偏重型教育はeラーニングに取って代わられる!?<br />先生の役割はこれからどう変わるべきか<br />本間正人×ネットイヤーグループ石黒不二代【前編】ほんま・まさと/NPO学習学協会代表理事、らーのろじー株式会社代表取締役、帝塚山学院大学客員教授、一般社団法人キャリア教育コーディネーターネットワーク協議会理事。東京大学卒業、ミネソタ大学大学院修了(成人教育学 Ph.D.)。ミネソタ州政府貿易局、松下政経塾研究主担当、NHK教育テレビ「実践ビジネス英会話」の講師等を歴任。「教育学」を超える「学習学」を提唱し、参加型研修講師として定評がある。コーチングやポジティブ組織開発、ほめ言葉などの著書多数。 Photo by Toshiaki Usami

本間 私は松下政経塾の出身なのですが、政経塾には常勤の先生がおらず、「自修自得」が基本方針だったんです。私はその点に非常に共感していました。しかし、日本は「教えられる」ことが教育の基本になってしまっています。これは非常に大きな問題です。

 既に存在している知識やスキルを身に着けさせることを目的にした従来からの教育、「教育学」を修めた学校の先生がはりきりすぎると、生徒は教わることに慣れてしまい、自ら学ぼうとしません。「空腹は最高のソース」とも言いますが、むしろ学びたいという気持ちを引き出すような仕掛けが重要でしょう。「学べ学べ」と言われるのは、「食え食え」と言われるのと同じようなものです。

 教育が確立してから数百年が経ちましたが、人類史の数百万年を振り返れば、教育史はごくわずかな時間に過ぎません。それまでの間、人類は教育がなくとも自ら学び、盗み合い力をつけて生き延びてきました。学習こそ人類の強みですが、教えることに力を入れ過ぎてしまったために、人類の強みが失われているという危機感を持っています。

石黒 日本は記憶偏重の1つの答えを教える教育をしている一方、アメリカは答えがないという前提に立って、複数の答えの中で自分が正しいと思うもの選び、相手に説得するコミュニケーション能力を培う教育をしています。私は、ビジネスの世界では、そもそも大正解なんてないので、臨機応変に考えコミュニケーション能力を高めるようなアメリカ型の教育の方が正しいと思っているのですが、先生はどう思われますか?