入社して半年が経ち、Aはますます忙しくなった。電話かけのノルマは1日500件に減ったものの、担当している顧客対応もあり、帰宅するのに終電を逃すことが増えてきた。その時はネットカフェに泊まっていたが疲れが取れない。体の負担を考えて会社から近いところに引っ越そうかと考えたが、休日もほとんど出勤しているため、新たな住まいを探す時間さえなかった。いよいよ困ったAがB課長に相談すると、こう言われた。

「じゃあ、他の社員たちと一緒に会社に泊まればいいじゃん。通勤の手間が省けるよ」

 翌日、登山用高級寝袋とパジャマが支給された。確かにC社長、B課長、先輩たちはほとんどの週で4日から5日は会社に寝泊まりしているようだった。夜中に仕事が終わった時は、皆でワイワイやりながら晩酌を楽しんだりしていた。AはC社長からこう言われた。

「お前もこれで寝袋族だな。これからは単なる社員ではなく俺たちの仲間だ」

 Aはその言葉に感激した。ニート生活のせいで友達との交流がほとんどなくなっていたので、仲間ができたのは嬉しかったのだ。ところが、寝袋生活が続いていくうちに、慣れない環境と寝不足のせいで疲れがどんどんたまり、体調を崩していった。

体調崩して病院へ行ったら
診断の結果は…?

 そして2ヵ月経った1月下旬のある日、Aは朝から熱が出て体中が痛くなり、寝袋から外へ出られなくなった。心配したB課長が尋ねた。

「おい、A、どうした?」
「体中が痛くて、寝袋から出られません」
「ハハハ…お前、ミノムシみたいだな」

 B課長は笑いながら寝袋を開け、Aをなんとか起こすと、顔をマジマジと見つめた。

「顔が赤いぞ。熱があるみたいだな。とにかくすぐに病院へ行ってこい」

 Aは会社近くの内科へ行った。診断の結果はインフルエンザだった。病院から戻ると、居合わせたC社長に報告した。

「社長、インフルエンザにかかってしまいました」

 C社長は事もなにげに言った。

「ふーん…、それで?」
「医者に、病気が治るまで会社を休むように言われました」
「で?君は会社を休む気なの?」

 Aはその発言に驚きながら答えた。

「は…はい。医者から言われたので…」