世の中には、生涯で本を5冊も読まない人が大勢います。
「購入された書籍全体の95%が読了されていない」のです。
でも、途中まで読もうとしただけでも、まだマシです。
「購入された書籍全体の70%は、一度も開かれることがない」のですから。
「最初から最後まで頑張って読む」「途中であきらめない」
こんな漠然とした考え方は、今すぐ捨ててしまって結構です。
これから紹介する1冊読み切る読書術さえ身につければ!
面白い本は1ページ目が半端ない
1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大学大学院教育学研究科博士課程を経て、明治大学文学部教授。専門は教育 学、身体論、コミュニケーション論。ベストセラー著作家、文化人として多くのメディアに登場。著書に『声に出して読みたい日本語』(草思社文庫、毎日出版文化賞特別賞受賞)、『身体感覚を取り戻す』(NHKブックス、新潮学芸賞受賞)、『雑談力が上がる話し方』(ダイヤモンド社)、『大人 の語彙力ノート』(SBクリエイティブ)など多数。<写真:読売新聞/アフロ>
“本選びのヒントになる本”がありますので、紹介しましょう。
『ジョジョの奇妙な冒険』(集英社)の漫画家・荒木飛呂彦さんが著した、
その名も『荒木飛呂彦の漫画術』(集英社新書)です。
荒木さんが漫画を創作するための秘密を惜しげもなく公開しています。
荒木さんは16歳で漫画家になると決意して、
新人賞にせっせと応募していましたが、ボツになってばかりいたそうです。
そんな時期に荒木さんが最も恐れていたのは、一生懸命に描いて持ち込んだ漫画を、
編集者が最初のページだけ見てボツにしてしまうことでした。
編集者のもとには日々原稿が持ち込まれていますから、
最初のページを見ただけでものになるかどうかわかってしまうそうです。
そのまま袋に原稿を戻されてしまうのは、
漫画家にとっては相当にショックなことです。
そこで荒木さんは、売れている漫画の1ページ目を徹底的に分析しました。
どうすれば最初のページから引き込めるかを考えまくったのです。
そして荒木さんは、こう結論づけました。
重要なのは最初のページの「絵」「タイトル」「セリフ」。
面白い漫画は、絵にちょっとした驚きがあり、
タイトルに興味が湧いて、セリフに心が惹きつけられると分析したのです。
冒頭の“ツカミ”が重要なのは漫画に限らず、小説や実用書も同じことです。
面白い本は、1ページ目の引きずり込む力が半端ないのです。
太宰治はむずかしくない
たとえば、次の文章を読んでみてください。
「申し上げます。申し上げます。旦那(だんな)さま。あの人は、酷(ひど)い。酷い。はい。厭(いや)な奴です。悪い人です。ああ。我慢(がまん)ならない。生かして置けねえ。
はい、はい。落ちついて申し上げます。あの人を、生かして置いてはなりません。世の中の仇(かたき)です。はい、何もかも、すっかり、全部、申し上げます。」
いかがでしょうか。
冒頭から「申し上げます。申し上げます。」という、
なにか訴えようとしている緊迫感に惹きつけられませんか?
さらに「我慢ならない」「生かして置けねえ」「世の中の仇です」など、
穏やかではない言葉とともに「えっ、なんだ? なにが起きた?」と、
さらに惹きつけられます。
この話の続きが、ちょっと気になったのではないでしょうか。
これは太宰治の『駈込み訴え』という短編の冒頭です。
太宰治は、短編の名手です。
「太宰治って、なんとなく難しいと思っていたけど、ちょっと面白そう」と
思ってもらえたら嬉しいです。
読書に苦手意識を持つ人は、読み始めからつまずきがちです。
そうならないためには、
「タイトル」「目次」「はじめに」を参考にするとともに、
出だしの3行だけでいいので読んで、
面白そうだと思ったら買ってみるのもおすすめです。
引きずり込む力のある出だしは、
自転車に乗るときの電動アシスト機能のようなもの。
あまり力をかけなくても、最初のひと踏みから、
ペダルをこぐ足ならぬ、ページをめくる手が進みます。