世の中には、生涯で本を5冊も読まない人が大勢います。
「購入された書籍全体の95%が読了されていない」のです。
でも、途中まで読もうとしただけでも、まだマシです。
「購入された書籍全体の70%は、一度も開かれることがない」のですから。
「最初から最後まで頑張って読む」「途中であきらめない」
こんな漠然とした考え方は、今すぐ捨ててしまって結構です。
これから紹介する1冊読み切る読書術さえ身につければ!
著者への“共感”が原動力
1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大学大学院教育学研究科博士課程を経て、明治大学文学部教授。専門は教育 学、身体論、コミュニケーション論。ベストセラー著作家、文化人として多くのメディアに登場。著書に『声に出して読みたい日本語』 (草思社文庫、毎日出版文化賞特別賞受賞)、『身体感覚を取り戻す』(NHKブックス、新潮学芸賞受賞)、『雑談力が上がる話し方』 (ダイヤモンド社)、『大人 の語彙力ノート』(SBクリエイティブ)など多数。<写真:読売新聞/アフロ>
これまで「タイトル」「目次」「はじめに」など、出だしの話をしてきましたが、
本を「おわりに」(あとがき)から読むという人もいます。
「おわりに」には、著者の個人的な想いが記されているケースが多いです。
「なぜこの本を書く気になったか」
「書いている最中にどんな気持ちだったか」
「書き終わってなにを思うか」
など、いわば“楽屋話”が展開されるわけです。
ちょっと人間味を感じられる「おわりに」から読む人がいるというのも、
うなずけます。
「戦地に向かうとき、この原稿を友人に託した」
こんな「あとがき」を目にして、
私は思わず襟(えり)を正して本を読んだ経験があります。
『日本政治思想史研究』(丸山眞男、東京大学出版会)という本です。
「自分の人生をこの研究に捧げた」なんて言われるとたまらないという人は、
ぜひ「おわりに」に目を通して、共感できる本を読んでみてください。
著者への“共感”が、1冊読み切る原動力となってくれることもあります。
「おわりに」で親近感が湧いたら読んでみよう
共感したという点で私が印象に残っているのは、
『大漢和辞典』(諸橋轍次、大修館書店)という世界最大の漢和辞典です。
そこには「劫火(大火災)によって一切の資料を焼失した。
半生の志業(事業)はあえなくも茲に烏有(まったくないこと)に帰した」
というエピソードが記されていました。
「資料を焼失!? 嘘でしょう!」
他人事ながら、思わずめまいがしてきました。
かつて私も英語の本を翻訳している最中に、
パソコンがクラッシュして原稿がお釈迦になったことがあります。
今思い出してもゾッとする恐怖体験ですから、
諸橋先生のお気持ちが少しはわかるつもりなのです。
そんな楽屋話を通じて著者に親近感が湧くと、
その本を読むモチベーションが一気に高まりますから、
「おわりに」から読み始めるというのも1つの手なのです。
ところで「おわりに」で、
「ウイーンのホテルの一室にて」
「私はこれをフィレンツェに向かうトランジットの時間に書いている」
などと記されていることがあります。
なんだか鼻につきますが、1冊の本を書き上げた労力に敬意を表し、
温かい気持ちで受け入れてあげるのが、大人の態度というものでしょう。