現在、最も問題となっているのは協定案の付属議定書に盛り込まれたアイルランド国境管理のあり方であり、通称「バックストップ」と呼ばれる案の内容だ。現在の事態混迷はこのバックストップ案について穏健離脱派、強硬離脱派ともに賛意を示せないという状況に起因している(同案については次の設問で詳述する)。

 とはいえ、バックストップ案もさることながら、もとをただせば、2017年6月8日の総選挙で与党・保守党が予想外の大敗を喫し、議会が分裂、北アイルランドの地域政党・民主統一党(DUP)の域外協力が必要なまでにメイ政権の勢力が後退したことが元凶でもある。

 誰も多数を握れないまま、譲歩が難しいEU離脱という政治課題が浮上し、「この案しかないと皆が分かっていても最終可決に至ることができない」という状況が生まれてしまっている。

 協定案で合意した後、メイ首相が述べたように、現行案は明らかに「実現できる最良で唯一のディール(This is the best possible deal, it is the only possible deal)」なのだが、数の力学が正しい総合判断を下すことを阻害しているのが現状である。

 最後の設問でも述べるように、もはや全てのステークホルダーにとって納得のいく着地点を見いだすのは不可能であり、誰かが思い切った譲歩をしなければ、たとえ交渉期限を延長してもこの状況が続くと思われる。

Q:バックストップとはそもそも何か? 

 バックストップとは2020年末の移行期間終了時、英国とEUの新たな貿易協定が締結されず、移行期間の延長もなかった場合、アイルランドと北アイルランドの国境を空けておくために発動される安全策のことである。要は物別れに終わった際、なし崩し的に国境が発生しないための約束だ。