企業における職業経験だけが
キャリア形成ではない

 筆者が、産業カウンセラーとしてビジネスパーソンのキャリア相談を受けるとき、キャリアカウンセリングの基礎理論を念頭に置きながらカウンセリングを行います。基本理論にはいくつかありますが、今回は「職業発達理論」から考えてみましょう。

「職業発達理論」の代表的な理論家であるアメリカの心理学者ドナルド・E・スーパーは、「個人は多様な可能性をもっており、さまざまな職業に向かうことができ、職業発達は、個人の全人的な発達(知的発達・社会的発達など)の1つの側面である」と考えています。

 一般的にキャリアといえば、企業内のビジネスキャリアとして捉えられがちですが、一生を通して人はいかに多様な役割を果たしており、それらが相互に関連し合ってキャリアを形成するとの考え方です。

 この事例の場合、Aさんは、企業内におけるキャリアは「SE」ですが、家庭では小学生の息子がいる「父親」でもあり「夫」でもあります。そうした役割が相互に関連し合って、新たなキャリアが生まれるというわけです。したがって、SEとしてのキャリアアップだけでなく、「働き方プロジェクト」で能力を発揮することもキャリアになるというわけです。

 では、管理職であるNリーダーは、Aさんのキャリア相談にどのように答えていけばよかったのでしょうか。会話から学んでいきましょう。

Aさん 「実は、社内公募の新しいプロジェクトに応募しようと思っています」
Nリーダー 「新しいプロジェクトに応募とは?」
Aさん 「こらからの働き方を考える新しいプロジェクトで、企画に携わりたいと思っています」