『週刊ダイヤモンド』2月23日号の第2特集は「泥沼日韓 20の大疑問!」です。いま、日韓関係が危機に瀕しています。2018年秋から元徴用工への賠償をめぐる裁判や慰安婦問題、レーダー照射問題などが次々と浮上し、政府間の感情的な対立に発展したことにより、国民の間でも韓国に対してかつてないほどの疑問や不信感が渦巻いています。その背景を元駐日韓国大使の申カク秀氏(カクの文字は王へんに玉)に聞きました。(聞き手/『週刊ダイヤモンド』編集部 片田江康男)

関係悪化が構造的に定着
両国ともに国内政治を優先

Kak-Soo ShinKak-Soo Shin/1977年ソウル大学法科大学(法学士)。79年ソウル大学大学院(法学修士)。91年ソウル大学大学院法学博士(国際法)。76年外務部入部。77~86年条約局国際法規課等を経て86~89年在日本大使館一等書記官。その後、亜洲局北東アジア一課次席、在国連代表部参事官。02~04年条約局局長。04~06年在国連代表部次席大使。06~08年在イスラエル大使。08~11年外交通商部第二次官、外交通商部第一次官。11~13年在日本大使。現在は国立外交院国際法センター所長、ソウル大学日本研究所特任研究員、法務法人世宗(SHIN&KIM) Photo by Yasuo Katatae

――日韓関係の現状をどう見ていますか。

 韓日関係の基本である1965年日韓基本条約から、今年で54年になります。これまでも韓日間にはいろいろな問題があり、両国関係は危機になったこともありました。今回の関係悪化は、非常に長く、もっとも厳しい危機ではないかと思います。

 70年代、金大中拉致事件や文世光による朴正煕大統領夫人の暗殺事件など、韓日関係を危機的な状況にする事件がありました。当時は国交断絶という話まで出ていました。しかし、1年ほど経つと冷静さを取り戻しました。

 でも、今回の危機は長引いています。2012年に入ってから関係が悪くなり、改善したのは15年の韓日合意のとき。その後は小康状態でした。それが16年末からまた悪くなり、それが今まで続いています。

 この悪化は文在寅政権だけが招いたことではありません。朴槿恵政権のときも、そんなに良くなかった。今は、関係が悪い状態が長引くにつれて、両国はより感情的になっていて、お互いにそれを増幅してしまっている。構造的に、関係悪化が定着することになっています。

 その背景には、いろいろな要因があります。まず、両国ともに戦後生まれの世代に変わって、両国の過去史に対する認識の差が出ています。韓国側から見ると、日本は安倍政権になってから保守右傾化、歴史修正主義が顕著になっています。