オフィスの温度を決めるのは「偉い人」
立場の弱い人は離脱できない

 ラーメン店のケースはこちらが顧客なので、離脱すればよいだけの話であるが、オフィスにあってはどうだろう。ただ離脱すればよいというわけにはいかない。

 昔からオフィスの温度をいかに設定するかは難儀な問題だった。

 偉い人の好みに合わせると、その昔は偉い人といえば、だいたいが中年のおじさんで、やや肥え気味であることが多く、スーツを着てネクタイをしていた。いきおいそうした偉い人の好む温度は低めになる。冬よりも夏が問題で、強烈に低い温度設定にするものだから、痩せている人や薄着の女性などは、夏なのに毛布が欠かせないということも往々にしてあった。それだけでもオフィスで働くのは苦痛だったはずだ。

 簡単に会社を辞める(離脱する)わけにもいかないから、何らかの形で発言をしたこともあるだろうが、それにもかかわらず、取り合ってもらえなかったことも多かったに違いない。いや、そもそも権力のあるものに対して物申すのは大変なことである。何か問題があることを発言するには、気持ちのうえで大きなコストがかかる。

 このところ「退職代行サービス」なるものが登場し、この業者には、月に300人ほどの申し込みがあるという。人手不足による強引な会社側の引き止めのため、退職の意思を会社に伝えるのが苦痛で、第三者に伝えてもらうためのサービスである。

 つまり、最近では、離脱する際に、何か問題でもあったのか、と聞かれたりすることさえいとう人も多いくらいなのである。

 タクシーの中というのも、とくに真夏は過酷な空間である。私自身は痩せ形で、あまり低すぎる温度設定を好まないので、タクシーに乗って寒いと感じると温度を上げてもらうことが多いのだが、タクシーの運転手の話では、炎天下、スーツにネクタイ姿で外回りの営業をしている人などは、タクシーに乗った瞬間劇的に涼しいと感じられなければ、不満に思うものらしい。だから、震え上がるくらいの低い温度設定にして走っているという。