この連載では、安倍政権の「第三の矢」の取り組み自体に問題ありと批判してきた。安倍政権は、「第三の矢」がさまざまな業界の既得権を奪うことになり、内閣支持率低下に直結するので、できるだけ先送りしようとしてきたように見える。

 安倍政権は「第三の矢」を「支持率維持の道具」くらいにしか考えていなかったように思える。例えば現在、成長戦略を担当する経済産業相に起用されている世耕弘成氏は、初入閣で、成長戦略のかじ取りをするには経験不足だ。だが、小泉純一郎政権期から長きにわたって、自民党の広報戦略を担ってきた人物であり、成長戦略を「支持率調整」に使いたい首相の意図だけはよくわかる人事である(第138回)。

 また、現在自民党の総務会長を務める加藤勝信氏は、「新・アベノミクス」として打ち出された「働き方改革」「一億総活躍社会」の担当相を務めたが、同時に「女性活躍担当相」「再チャレンジ担当相」「拉致問題担当相」「国土強靱化担当相」「内閣府特命担当相(少子化対策男女共同参画)」も兼務した。

 まるで一貫性のなさそうなこれらの業務だが、「国民の支持を受けやすい課題」という共通点がある。つまり、加藤氏は事実上「支持率調整担当相」であり、首相官邸に陣取って、支持率が下がりそうになったらタイミングよく国民に受ける政治課題を出していくのが真の役割だったのではないだろうか(第122回)。

 要するに、「第一の矢」「第二の矢」で「カネが切れたら、またカネを出す」のバラマキを繰り返した。「第三の矢」ですら、支持率維持のための道具としか考えていない。その結果がどうなのかが、アベノミクスの真の評価を決めるのであり、野党が国会で徹底追及すべきことなのではないか。

米中ハイテク戦争の「蚊帳の外」
となった現実に向き合うべきだ

本連載の著者、上久保誠人氏の単著本が発売されます。『逆説の地政学:「常識」と「非常識」が逆転した国際政治を英国が真ん中の世界地図で読み解く』(晃洋書房)

「統計不正」の問題は、「財務省の決裁文書改ざん」「防衛省の公文書隠蔽」「厚労省のデータ不正調査」とともに、国家運営の根幹を崩しかねないものであり、徹底的に問題を明らかにすべきである。ただし、この問題は与野党ともに責任がある。政争の具にすることなく、超党派で取り組むべきものである。

 一方、日本の外に目を向ければ、米国と中国が貿易戦争状態となっている。最初は、中国からの「安かろう、悪かろう」の粗悪品が大量に米国に輸出されていることがアンフェアだとされたのかと思っていた。だが、気が付いたら、中国のハイテク企業が米国の攻撃対象となり、最先端の技術を巡る競争となっている(第201回)。

 日本は高い技術力を誇ってきたつもりだったが、中国に完全に追い越されたのではないか。日本は、米中の争いから「蚊帳の外」になっている、世界のハイテク技術の開発競争から完全に「周回遅れ」となっていることが次第に明らかになってきた。

 安倍政権が「この道しかない」と進めてきたアベノミクスの6年間は、本当に間違ってなかったのか。特に「成長戦略」の成果は十分に出ているのか。「他の道」があるとすれば、それはどのようなものか。それこそが、国会で論争されるべきことなのではないだろうか。

(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)