あちらを立てればこちらが立たずの世界だが、そこをいかにうまく調整し、結果オーライにできるか。それが樋口に与えられたミッションであり、仕事なのだ。しかし、樋口はどこまでも軽やかだ。

「まあ、ストレスがたまる仕事ではありますよ。ただ、私の場合、飲んでしゃべって、クダを巻いて、ぐっすり寝ちゃえば、忘れちゃう方なんですけどね」

 この明るさが、樋口の強みの1つでもあるようだ。

 しかし、笑ってばかりもいられないのが実際の仕事だ。樋口自身、笑顔の裏で、相当な修羅場をくぐり抜けてきた。

待ったなしの状況でトラブル発生
そのときリーダーはどうしたのか

 1年半ほど前のある日、樋口のイライラは頂点に達していた。

「待ったなしで結論をつけなければいけない状況だった時期に、トラブルが発生。これを早急に何とかしなきゃ、顧客にも会社にも大きな損害を与えてしまうことになる。それなのに部下たちの態度があまりにも受け身、指示待ちで、にっちもさっちもいかない。しかも、部下たちをそうさせてしまっていたのは、リーダーである自分だということを半ば自覚していたので、部下への怒りと自分への怒りがない交ぜになって、爆発寸前でしたね。いや、爆発しちゃってたかな」

 ある自動車メーカーから依頼された新車のタイヤ開発。その期日が目前に迫っている中、不具合が起き、その根本的な修正案が見つからないという“ドツボ”にはまりつつあった。樋口は振り返る。

「自動車メーカーからの要望、要求を踏まえてタイヤを開発し、数回のチェックを経て、最終的な仕様が決まり、量産となるのですが、期日目前なのに、仕様が決まらなかったのです。このときは開発側の進め方に原因があったのですが、設計陣のせいにするだけでは何も解決しない。みんなで一丸となってこの状況をクリアしないといけないわけです。でも、これまでずっと、目先の対処や対応ばかりしてきたことがあだとなって、根本的な要因がなかなか見つからない。あのときはほんとに焦りました」