嫌われても
部下に“やり切らせる”

 一般的に、感情に任せて部下をしかってはならない、というのがマネジメントの常識かもしれない。樋口の取った態度はその真逆に見えるが、これについて樋口はどう考えているのか。

「A君のいい加減な準備のせいで、相手の信用を失うかもしれない。プロジェクト自体が台無しになる可能性だってある。直需技術グループのリーダーとしてそれだけは避けなければならないと。そのためには、何としてもA君に目の前の仕事をやり切らせなければならない。そんな思いだけでした」

 樋口も参加経験のある組織革新研究会では、「部下が易きに流れるのを許さないのがリーダーの役目」であるということを徹底的に叩き込まれるが、樋口はまさにこれを実践した。

「そんな偉そうなもんじゃないですよ。まあ、ただ、部下に嫌われようが厳しいことを言わなくちゃならないときはちゃんと言う。しかるときは本気でしかる。それは心掛けていますね」

 “本気”は相手に伝わる。樋口は振り返る。

「お説教タイムが終わると、最終テストまでの時間、A君は目の色を変えてかつてのデータを洗い、頭に叩き込んだようです。当日、顧客からの質問、疑問に正確に答え、結果として顧客からの信頼を得ることができた。やればできるんですよ」

 後日、お客さんから「よくやってくれました」と感謝の言葉をもらったA君に、樋口は尋ねた。

「どうよ、今の気持ちは」

 するとA君は充実した顔を樋口に向け、こう言ったという。

「めちゃくちゃ気持ちいいっす」

 部下が“やり切った”後は、一緒に祝杯をあげるのが樋口のスタイルだ。

「仕事をきっちりと片付けたら、飲みに行くぞと。だから、集中してやろうと。1日の業務が終わって、楽しい酒を飲んで家に帰り、寝る前に今日も充実してたなと思えれば、それほど間違った仕事してないってことだと思うんですよ」

 仕事が充実しているから酒もうまい。小さなことだが、樋口はそれを大事にしている。