こんにちは、「電子書籍フォーキャスター/World Business Trend Tracker」の吉田克己です。前回に続き、電子書籍マーケットの将来予測(フォーキャスト)をお届けします。第3回は、読者の電子書籍に対する意識を踏まえながら、電子書籍の普及に伴って出版や書籍マーケットの構造がどのように変化しそうなのか見ていきます。
電子書籍と紙の書籍との
差額はどれくらいが妥当か
電子書籍の価格に関しては、読者の側から「高すぎる」という声を聞くことはあっても、適正価格に関する議論はあまり進んでいないように感じます。
誤解を恐れずに言うならば、筆者は適正価格を消費者に尋ねることにあまり意味を感じていません。
よく、小麦製品やガソリンなどの値上げに合わせて、街頭で道行く人に感想を求めるシーンがテレビのニュースで流れますが、おカネを出す側に聞けば、「安いほうがいい」「上がらないほうがいい」と答えるに決まっています。
ましてや、「いくらなら買いますか?」「いくらくらいが妥当だと思いますか?」という質問に対して、明確な答えを期待すべくもありません。
※最近、街頭インタビュータレント(要は「さくら」)の存在が明らかになっていますが、ここでは無視します。
しかし、さすが本をよく読む人は違うのか、電子書籍の適性価格に関してはいくつかの調査で明確な答えが出ています。
2010年6月に実施された、楽天リサーチ調査・発表の「電子書籍に関する調査」(2010.06.25)によると、「電子書籍の1アイテム当たりの購入価格」については、単品購入を条件に、1アイテムあたり「201~300円」と「401~500円」の2ヵ所にヤマがあることがわかります。
上記の調査では絶対金額について聞いていますが、紙の本との価格差(比率)について回答を得ている調査もあります。ごく最近、AppBankがiPhoneユーザーを対象に行った調査によると、「電子書籍を購入する際、紙の書籍との差額はどれくらいが妥当と思われますか?」に対する回答には、「紙の書籍の70%程度」と「紙の書籍の50%程度」の2ヵ所にヤマがあります。
●【調査結果】電子書籍の値段は、どれくらいが妥当だと思いますか?(2012.05.18)
おもしろいのは、この2つの調査結果の分布がよく似ていることです。仮に、401~500円と70%、201~300円と50%が対応すると考えて元になる紙の本の価格を逆算すると600円前後となり、文庫本の価格帯に相当します。
単行本の価格帯が1300~1500円(消費税別)が中心であることを考えると、絶対金額と比率とのあいだに矛盾を感じなくもないですが、既刊本の電子書籍化に関しては300円ないしは500円以下、新刊本との同時発売については半額もしくは7掛け以下というのが“読者の側から見た”妥当線なのかもしれません。