後手に回る
“灰色のサイ”問題に対する対策

 全人代を通して、中国が軍事強化から手を抜けなくなったことがはっきりした。これまで中国が重視してきたIT先端技術の吸収に関しても、軍事面との関係性が一段と重要になるだろう。政治活動報告の中で“中国製造2025”への言及がなかったことが米国への配慮であると片付けるのは早計すぎる。むしろ、軍事強化を通して中国は米国への対抗心を明確に示したとみるべきだ。

 気がかりなのは、“灰色のサイ(債務問題)”への言及がなかったことだ。世界の覇権を目指した旧ソ連は、計画経済の下で軍事の増強を優先した。結果的に、経済は混乱し、社会主義国家が崩壊した。現在の中国にも、同じことが当てはまるように思う。成長の限界を迎えた中国が覇権強化のために軍備拡張に突き進んだ結果、経済運営がおろそかにならないか、先行きへの不安は高まったように思う。

 全人代の政治活動報告の中で、共産党は、債務問題への問題意識をにじませはした。しかし、その政策の根本的な発想は財政のばらまきを通した経済環境の維持だ。企業や消費者のマインドがさらに悪化した場合、追加的なバラマキ政策が発動される可能性は高い。結果的に、中国の債務問題は一段と深刻化する恐れがある。

 短期的には、減税やインフラ投資が行われることによって、中国経済が幾分か持ち直す可能性はある。ただ、従来に比べ、回復のモメンタムは緩慢になるだろう。加えて、景気刺激策の賞味期限も短くなるだろう。それは、付加価値を生まなくなったにもかかわらず投資を重ね、その場しのぎの対応に終始してきたツケだ。

 長めの目線で考えると、中国経済の先行き不透明感は増している。不良債権問題は処理を進めない限り解消しない。いったん米国経済の減速がより鮮明となった場合、世界の金融市場では中国の債務問題への懸念が急速かつ大規模に上昇するだろう。全人代で中国政府がそのリスクを抑える方策を示すことができていないことが気がかりである。

(法政大学大学院教授 真壁昭夫)