2016年の米大統領選挙で大きな注目を集めたフェイクニュースだが、アメリカ国内では複数の国会議員らがすでに2020年の大統領選挙におけるフェイクニュースの拡散に警鐘を鳴らし始めている。とりわけ、大きな脅威として懸念されているのが「ディープフェイク」と呼ばれるフェイク動画の存在だ。米シンクタンクでサイバーセキュリティを研究する専門家も「現時点では対処方法が見つからない」と語るディープフェイクとは、一体どういうものなのか。(ジャーナリスト 仲野博文)

ディープラーニングによって作られる
本物そっくりのフェイク動画とは

「ディープフェイク」と呼ばれるニセ動画の危険性が指摘されているPhoto:PIXTA

 2月14日、カリフォルニア大学ロサンゼルス校で公共政策を教えるジョン・ヴィラセノール教授は、上級フェローとして籍を置くワシントンのシンクタンク「ブルッキングズ研究所」のウェブサイトに分析記事を寄稿。その中で来年行われるアメリカ大統領選挙について言及し、「ディープフェイクが使われる場面や目的は極めて不穏なものだ。選挙では多くの候補者が標的になる可能性があり、彼らは捏造された動画の中で、自らの選挙戦を台無しにするような発言をする」と警鐘を鳴らしている。

 もちろん、候補者が自らの首を絞めるような発言を行うケースは稀であるし、大統領候補ともなれば公の場での発言は各陣営のスタッフによって細かい部分までコントロールされているのが常だ。ヴィラセノール教授が不安視するのは、新しい技術によって、候補者が実際には発言していない言葉が、フェイク動画によって候補者の言葉として瞬時に拡散するリスクである。この新しい技術を用いたフェイク動画は「ディープフェイク」と呼ばれている。

「ディープフェイク」とは、人工知能最大の特徴であるディープラーニングと、フェイクニュースを足して作られた造語だ。もともとはスタンフォード大学の研究チームが開発に携わったAIがベースになっているとされ、A氏がビデオカメラの前で発した言葉を、すでに存在するB氏の映像に瞬時にミックスさせることが可能だ。A氏の発言は、言葉だけではなく、口の動きや瞬きといった細かい表情までコピーされ、B氏の顔に「移植」される。加えて、アルゴリズムによって声までが自動調整されるため、完成した映像ではA氏の話した言葉が、B氏によってほぼ完璧に話されることになる。