このことは、調査員や報告企業の負担を減らすなどの理由があったとしても、ルール変更の正式な手続きを経なかったのは重大な問題である。

 さらに、サンプル調査の結果を集計する段階で起きた初歩的なミスが、統計数値の過小バイアスをもたらす原因になった。

 サンプル数が全数の3分の1なら、その結果を集計する際のウエートを3倍にするという「復元処理」が必要なのに、それが行われていなかったのである。

 しかも、何年か経過した時に厚労省内でも、担当者らはこの「ミス」に気づいたが、その後もこのことは公表も修正もされず、結局、15年近くにわたり復元処理を欠いた誤った統計が作成された。

 その復元処理が2018年分のデータから急に行われるようになったが、その際も対外説明も過去データの訂正もなかった。

 この件には、「ルール違反」や「重大ミス」、「隠ぺい」と言われても仕方がない処理がすべて絡んでいる。

 賃金偽装というより、もっとはるかに低い次元での、統計作成を巡るガバナンスの欠如がこの問題のほぼすべてと言ってよい。

「アベノミクス偽装」の批判は的外れ
本質は「データ・ロンダリング」

 賃金偽装という疑惑が持たれたのは、毎月勤労統計の「公表値」による2018年の賃金上昇率が急速に高まったからだが、その主因は統計の不適切処理にあったのだ。

 前述の通り、厚労省は2018年分のデータから下方バイアスを除去する修正をしたが、その際、2017年以前のデータは訂正されず、下方バイアスが放置された。

 こうした不整合な処理をすれば、2018年の「前年比」は当然、高まる。

 ただしこれが、2018年の賃金上昇率を高く見せる、という目的で行われたとは考えにくい。

 統計の意図的なねじ曲げは悪質極まりない行為であり、そんな大罪がばれたら安倍政権はそこで終わる。得るものに比べてリスクが大き過ぎる。

 それよりは、厚労省の中で、復元処理をしてこなかった過去のミスを表に出さずにデータの正常化を図りたいという心理が働いて、ずさんな処理となった可能性の方が高いのではないか。