マンション住民からの評価を聞いて、さすがの萩原さんもはにかんだ。「仕事は引き受けた以上、一生懸命働かないといけないと思う。住んでいる住民に喜んでもらいたい」と謙遜する。

 趣味は山登りと写真撮影。昔は花の名前など全く知らなかったが、今ではかなり覚えてきて、水芭蕉と尾瀬の秋が大好きになったという。こう語る萩原さんの表情は、まるで好々爺だ。

 もう1人は柴崎智恵子さん(72歳)。墨田区に嫁いできてから、二十数年間、靴工場でアルバイトをしていた。8年前に工場が閉鎖してしまった折に、清掃員を募集しているのを聞き応募。3人の子どもはすでに成人したので、それぞれの生活がある。夫の体調がよくないため、年金では足りない分を補わければならないという。

 清掃作業とはいえ、ゴミ出しなどは結構力がいる仕事だ。しかし、住民から「ありがとう」などと言われると、喜びと働き甲斐を覚えるという。特に、「辞めないでね」と住民から言われたときには、心に込み上げるものがあったそうだ。「体が許す限り、ずっと働いていきたい」と語る柴崎さんの言葉に芯の強さを感じた。

 仕事が終わった後、家に帰って夫と一緒に飲むビールが楽しみだという柴崎さん。そんな彼女にくっついて清掃の現場を見ながら、高齢の労働者が支える日本社会の現実を再認識させられた。

 しかし、長谷工コミュニティの幹部がつぶやいた次の言葉が、いまだ心に残っている。

「今ではリタイアした高齢者を募集するのでさえ至難の業だ。報酬を上げても人を集められない。これからどうすればいいのかと悩んでいる」

外国人受け入れは14業種
漏れた分野では高齢者が支え

 今年4月から、「特定技能1号」として14分野で正式に外国人の単純労働者を受け入れるようになった。建築、宿泊、農業、介護、造船、ビルクリーニング、漁業、飲食料品製造業、外食業、素形材産業、産業機械製造業、電子・電気機器関連作業、自動車整備業、航空業の14分野で、外国人労働者を受け入れる。

 しかし、マンション清掃などは除外されている。ビルクリーニングの作業内容に、「住宅(戸建て、集合住宅等)を除く建築物」という条件が設けられているからだ。そのため、もっと萩原さんに写真撮影の時間や、柴崎さんにご主人とビールを飲む時間を作ってあげたくても、残念ながら現段階では不可能だ。

 萩原さんや柴崎さんのような方たちに、集合住宅の管理や清掃作業を支えてもらわなければならない構造を変えるためには、まだまだ時間がかかりそう。その日がくるまで是非ともお体に気をつけていただき、時間を稼いでいただくしかなさそうだ。

(作家・ジャーナリスト 莫 邦富)