前述の透析に関する調査では、透析見合わせの経験がある病院で、患者の意思の揺らぎを受けて、透析治療をしたという回答は約7.5%(38施設 *2)だった。7.5%と低い数字になるのは、そもそも透析を見合わせた事例は、主に人生の最終段階とする日本透析医学会の提言に沿っていたからと推測する。あるいは透析見合わせ後、苦しまず、意思表示を撤回する必要がなくなるほど、薬剤等で静かに深い眠りについていたかもしれない。

 だが、実際の医療現場では事前指示書による対応に限界があるといわれるようになり、昨年、厚労省が大々的に発表した通称「人生会議」では、アドバンス・ケア・プランニング(ACP=Advance Care Planning)という手続きが新たに加わった。

 ACPでは患者がどんな人生を生きてきて、その都度、どのように考えてきたかをよく聞き取り、その人が大切にしている価値観を医療・介護関係者と共有する。患者の考えは心身の状態によって変化することがあるため、何度も繰り返し話し合う。医療者はこの患者の価値観を判断の軸として、医療ケアを実施することになっている。

 今回の騒動では、このACPの実践が医療現場に広がっているとはいえず、特に病院という多忙極める現場では、なかなか難しいことも見せつけた。

 前述の安藤准教授は「ACPは世間話から始まるものです。患者・家族は迷ったり悩んだりする姿を受け止めてほしいのです。病院より、生活について話し合える在宅療養や介護現場での活用のほうが向いています」とも話す。

 日本透析医学会は、提言でこの透析見合わせが社会問題になる可能性について触れ、「国民共通の話題として議論が深まり、国民全体が納得できるコンセンサスを得られることを祈念する」と結んでいる。

 先週の筆者の取材で学会調査の結果は公表しないと聞いた。だが、そうであれば、ぜひ報告していただき、さらなる議論につなげたい。