「ルーティン」を広く
認知させたのはイチロー

 その代表例が「ルーティン」だ。ルーティンは日々の決まりごと、日課といった意味を持つ言葉だが、スポーツ心理学では集中力を高め、安定したパフォーマンスを発揮するために「決めた手順で行う動作」として重視されている。

 イチローはこのルーティンを徹底して行い、好結果を出し続けたことで注目された。ネクストバッターズサークルでは、両足を相撲の「股割り」のような形に開き両手をヒザに置いてストレッチ。打席に入る前はリラックスした状態でバットをゴルフスイングのように1回振り、バットをヒザに置いて屈伸。打席に入ったら内股で足場を決め、右手を伸ばしてバットを垂直にする。左手で右肩の袖を軽く引っ張り上げるようにして構えに入る、という動作を必ず行った。

 打席は打者にとって戦いの場だ。どんなに場数を踏んでいても、打席に立ち投手と向かい合うと緊張する。心理状態も日々、微妙に異なる。だが、ルーティンとして同じ動作をすることで平常心を取り戻し集中することができる。戦闘モードにスイッチが入るということだ。

 イチローがこの特徴的な動作を行ないヒットを量産したことで、アスリートにとってルーティンの重要性が広く認知された。以前からルーティンを行なっていたアスリートもいたが、イチローによって一般にも知れ渡ったといえるだろう。

 その後はルーティンが話題になることも多くなった。2015年のラグビーW杯で活躍した五郎丸歩がプレースキックの前に行う動作(現在はやっていない)や、体操の内村航平が跳馬の前に両腕を伸ばし右手と左手を上下に重ねて前方を見る動作などだ。こうした動作を行なう意味を人々に知らしめた先駆者がイチローなのだ。