【おとなの漫画評vol.18】
『雪花の虎』
既刊7巻 2019年4月現在
東村アキコ 小学館
『東京タラレバ娘』の東村アキコが
「上杉謙信が女だったら」を描く
『雪花の虎(ゆきばなのとら)』は、東村アキコによる歴史漫画である。主人公は上杉謙信(1530~78)。ただし女性。「謙信は女だった」という仮説を立てて構築した作品だ。おそらく「雪」は越後を、「花」は女性を、そして「虎」は謙信を表しているのだろう。謙信は法名で、幼名は虎千代、元服後は景虎、そして関東管領上杉氏の養子となり、政虎、輝虎と改名するが、いずれも「虎」の文字が入る。
娘に虎千代と名づける親がいるか、とも思うが、男子を熱烈に欲していた父、長尾為景が、生まれた娘を男子として育てるために虎千代としたという設定で物語は始まる。
男女を引っ繰り返した歴史漫画といえば、よしながふみ『大奥』(白泉社)がよく知られていて、本欄でも紹介したことがある(「漫画『大奥』が描く男女逆転の世界、キャラ立つ女将軍らに釘付け」。これは江戸時代に男だけが感染し、発症するウイルスで男が絶滅の危機に陥り、すべての権力者が女に置き換わるという仮想の物語だ。将軍、老中、側用人はすべて女、反対に大奥はすべて男という倒錯した設定による長編漫画である。史実を踏襲しているので、読者は男女逆転の混乱を楽しむことになる。