朝倉氏遺跡『センゴク』では「一乗谷城の戦い」をはじめとした様々な合戦が他の作品を圧倒するほどの迫真性を持って描かれています。 (写真はイメージです) Photo:PIXTA

【おとなの漫画評 vol.9】            
『センゴク』全15巻 2004~07年
『センゴク天正記』全15巻 2007~12年
『センゴク一統記』全15巻 2012~15年
『センゴク権兵衛』既刊13巻 2018年11月現在
宮下英樹 講談社

信長、秀吉、家康ではなく、
有名ではない「仙石権兵衛秀久」が主人公

 2004年の『センゴク』は、第1巻の発行から14年、2018年11月現在、計58巻も刊行されている長編歴史漫画である。現在も「週刊ヤングマガジン」(講談社)に連載中だ。織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の天下統一をめぐる歴史劇だが、主人公は仙石権兵衛秀久という有名ではない武士である。仙石が織田、豊臣、そして徳川に仕え、戦国時代を生き抜いていく物語だ。

 天下統一の物語は膨大な小説、漫画、映画、テレビドラマ、演劇で描かれている。これまでの作品にはない本作の特色は、信長や秀吉など戦国の英雄が主人公というわけではなく、どちらかといえば普通の人に近い仙石秀久の人物像を掘り下げた点にある。仙石の人物画も、英雄たちのようにオーラを放つ面貌ではなく、ごく一般的な日本人青年に描かれている。

 史実どおりに物語は進んでいくのだが、仙石秀久の視点が面白い。それに作者と編集者は合戦の現場を歩いて取材し、克明な作図をもとに、事実として伝承されている合戦の地理上の問題点をよく指摘していて飽きさせない。例えば、ある戦場では、「この谷の幅でこの人数の通行は不可能、したがって戦法はこれこれだったのではないか」という推論をしばしば提示してくれる。実に新鮮な驚きがある。

 全体は4部作だそうで、第1部に当たる『センゴク』全15巻は、仙石秀久の15歳以降の物語だ。図らずも4男の秀久が仙石家を継ぎ、美濃の斎藤龍興に仕えていた。

 龍興が信長に敗れた際、秀久は信長に引き抜かれて秀吉の寄騎(よりき)にはめ込まれる。ここから信長に命じられた秀吉の戦闘に加わり、多くの合戦に参加することになる。「金ヶ崎の退き口」「姉川の戦い」「比叡山焼き討ち」「一乗谷城の戦い」などが微に入り細にわたって描かれ、呼吸が苦しくなるほどの緊迫感で物語は進行していく。今まで、このような痛いほどの緊迫感をもって合戦を描いた作品はないと思う。