米国で現代貨幣理論(MMT: Modern Monetary Theory)を巡る論争が熱を帯びている。拡張財政容認論とも言えるMMTに対してはさまざまな意見や批判があるのは承知しているが、資産運用業に従事する者として、ここではMMTが台頭してきた社会的な背景を整理した上で、マーケットへの潜在的な影響に焦点を置いて考えてみたい。
時代のキーワードは民主社会主義
MMT派の急先鋒であるステファニー・ケルトンNY州立大学教授は、バーニー・サンダース上院議員が2016年の米大統領選挙に立候補したときの経済アドバイザーだった。泡沫候補の1人にすぎなかったサンダース氏は、格差是正を訴えてミレニアム世代の支持を獲得し、最後までヒラリー・クリントン氏と民主党の指名候補の座を争った。
サンダース氏の公約は医療の国民皆保険化、最低賃金の引き上げ、インフラへの投資拡大、大学教育の無料化など政府支出の増大を伴うものが中心だが、財政赤字の拡大を一時的に容認してでも格差を是正する方が政策順位は高い、という主張の理論武装としてMMTが用いられたのだ。
格差是正を求める動きは、2018年の中間選挙で米国史上最年少の女性下院議員となったアレクサンドリア・オカシオ=コルテス氏に引き継がれている。母親がプエルトリコ出身の移民でNY州ブロンクス生まれの同氏は、28歳という若さにもかかわらず予備選で現職の民主党重鎮を破り、一気に知名度を上げた。民主社会主義者を自称し、医療や教育など市民権の平等を訴えており、若年層やマイノリティからの人気ぶりは「キング牧師の再来」と形容されるほどだ。
オカシオ=コルテス氏は富裕層への増税を主張しているが、同時に財政赤字の拡大にも寛容で、MMT支持者としての顔も見せている。ちなみに前述のケルトン教授は現在、キング牧師により組織された貧困層救済活動「Poor People’s Campaign」の経済対策アドバイザーを務めているが、オカシオ=コルテス氏とも経済政策面で連携していると推察される。