ただ、腎臓再生は長いこと不可能といわれてきた。

 再生医療自体は、2006年に京都大学の山中伸弥教授がiPS細胞の作製に成功したことをきっかけに大きく進化したが、心筋や血液、神経細胞、網膜等の再生と腎臓再生の難しさでは次元が違った。

「腎臓は生命活動にとって不可欠な臓器で、構造が非常に複雑です。特に難しいのは、尿を作る機能をもたせることでした。尿を作れるようになるには、1種類の細胞だけでなく、全身の血液を集めてろ過する機能を持った『構造体』が必要、つまり腎臓をまるごと再生しなければなりませんでした」(以下、「 」内は特に記している以外すべて横尾先生)

 越えても越えても立ちはだかる難問の山を乗り越え、「ラットによる腎臓再生に成功しました。臨床への応用は実現間近です。10年以内には患者さんへの応用を開始したい」と発表したのは2017年11月、幹細胞を利用し、体の機能を回復させる「再生医療」の研究に取り組み始めてから、実に二十余年が過ぎていた。

「どんなに不可能と言われても、『腎臓再生は絶対にできる』と100%信じていました。根拠はありませんでしたけどね(笑)。だって我々は、こんな複雑な臓器を生まれながらに2つも持っているんですよ。人間自身に、腎臓を作る能力がもともと備わっているのなら、再生だってできないわけがない。

 ただ、実際の研究では壁にぶつかってばかりでした。でも不思議なことに、『もうだめかも』というときになると必ず、誰かが助けてくれるんです。段階が進むごとに必要な出会いに恵まれて、さまざまな分野の専門家が協力してくれました。

 運もあったと思います。医学には時代によってトレンドがあり、注目度が高いテーマほど、人材や研究資金が集まりやすい。研究を始めた頃のトレンドは、ゲノム解析とか遺伝子治療でした。でも腎臓病は遺伝性疾患ではないので、純粋な遺伝子治療は使えません。それで視点を変え、骨髄で作られる造血幹細胞の質を改善する細胞治療に取り組んでみたりしたのですが、うまくいきませんでした。

 ところがやがて再生医療が注目される時代になり、『幹細胞を用いた臓器の再生』に挑んでいた僕は、期せずして、再生医療研究の最先端に立っていました。僕はそこに、人智を超えた、大いなる力の後押しを感じたんですね」