財閥企業の業績は、韓国国内の雇用や所得に直接的に影響する。雇用や所得の環境が悪化すれば、失業率の高止まりに直面してきた若年層などの不満が高まる。それが、社会心理をさらに悪化させる。韓国の政治家にとって、それは耐えられるものではない。政治家が財閥企業経営の問題を口にすることはあっても、実際に改革を進めることは難しい。

 加えて、韓国では労働組合の影響力が非常に強い。「韓国は労組天国」と指摘する専門家もいるほどだ。韓国自動車業界では、販売不振に加え労組のストが経営を混乱させている。昨年6月には、無労組経営を続けてきたサムスン電子でも労働組合が結成された。

 半導体輸出から景気が落ち込む中、韓国の労組は不満をため込み、不況下での賃上げなどを求める可能性がある。文大統領にとって、労働組合は重要な支持基盤だ。最低賃金引き上げ公約の撤回などを受けて、労働組合は文大統領を信頼しなくなっている。文氏としては、労働組合の感情を逆なでしたくない。その点からも、政府が財閥企業の経営改革に取り組むことは難しい。韓国にとって、富が公平に再配分されやすい経済を目指すことは困難だろう。

 文大統領としては、中国にすりより、需要のおこぼれにあずかりたいはずだ。財閥企業に依存し、その輸出を増やすことで成長を遂げてきた韓国にとって、最大輸出先である中国からの配慮は、喉から手が出るほどほしいものである。

 しかし、中国は自国の景気対策に取り組みつつ、米国との通商摩擦にも対応しなければならない。対米関係上、中国はわが国との関係を従来以上に重視し始めた。中国にとって、韓国にかまう暇はない。それに追い打ちをかけるように、財閥企業の世襲経営が限界に直面している。

 韓国を取り巻く内外の情勢は厳しさを増している。長めの目線で考えると、財閥企業の業績悪化懸念が高まり、社会心理に渦巻く“怨”の感情は膨らむだろう。当面、連鎖反応のように韓国の政治と経済への不安は高まらざるを得ないかもしれない。

(法政大学大学院教授 真壁昭夫)