「論理に裏打ちされた戦略があってこそ、成功にたどりつける」――これがかつてのビジネスの常識だった。しかし「他者モードの戦略」は、いたるところで機能不全を起こしつつある。その背後で、いま、マーケットに強烈なインパクトを与えているのは、「根拠のない妄想・直感」を見事に手なずけた人たちだ。
そんななか、最新刊『直感と論理をつなぐ思考法――VISION DRIVEN』を著した佐宗邦威氏は、いま何を考えているのか? P&G、ソニーで活躍し、米国デザインスクールで学んだ最注目の「戦略デザイナー」が語る「感性ベースの思考法」の決定版!!

「紙×手書き」が基本

いま、ビジネスの世界で圧倒的な結果を出している人は、マーケット調査や戦略思考からはじめるのではなく、内発的な「妄想(ビジョン)」からスタートし、それを具体化していくという手続きをとっている。

とはいえ、妄想を引き出すには、いくつかの要素が欠かせない。

その代表格が「余白」である。

何もしなくても妄想が溢れ出てくるという人は、決して多くない。そうした内発的な思考が生まれてくるための「キャンバス」をしっかりと用意して初めて、「他人モード」に縛られない自由な発想が生まれてくるのだ。今回はそのためのメソッドを解説してみたい。

「妄想のための余白(キャンバス)」と聞いたときに、多くの人が連想するのは「ノート」ではないだろうか。

実際、「新品のノートを買う」という行為は、いますぐ誰にでもできるという意味で、最も簡単な「余白デザイン」である。

すでに使っているメモ帳などでもかまわないのだが、できれば「他人モードの思考」がまったく書き込まれていない、まっさらな状態のものが望ましい。

持ち運んでいるときや開いた瞬間にテンションが上がるデザインだとなおよいだろう。その意味では、新しいノートを買ってしまうのがいちばん手っ取り早い。

このときによく聞かれるのが、「スマホやPC、タブレットではいけないのですか?」という質問だ。

たとえば、Evernoteアプリを立ち上げて「+」ボタンをタップしたり、Microsoft Wordを起動したりすれば、何も書かれていない画面が現れる。

ちょっとしたメモや仕事のドキュメント作成で、ふだんからこれらを使っている人にとっては、わざわざ紙のノートに手書きするというのは、ひどく非効率的で億劫に感じられるはずだ。僕自身、新しいガジェットやテクノロジーには目がないし、こうしたツールの便利さはよくわかっているので、そういう人の気持ちはよくわかる。

しかし、「余白」をつくるという視点で考えると、物理的な「紙のノート」に優るデジタルツールは、いまのところ存在していない。

紙のノートのメリットは「手書き」ができることだ。

ビジョン駆動型の思考は、右脳モードと左脳モードにまたがっている。絵を描いているときはもちろん、文字を手書きしているときでも、僕たちの脳は右脳モードに切り替わる。タイピングやフリックでのテキスト入力が左脳中心なのとは対照的だ。

ただ、最近ではかなり完成度の高いペンタブレットが出ているので、デジタルデバイスの側も「手書き」という点では紙に劣らないかもしれない。

他方で困るのが、デバイスの画面に向き合っている限り、どうしても「他人モード」の邪魔が入るという点だ。ふいに友人からのLINEが来るかもしれないし、TwitterやFacebookのプッシュ通知が目に入れば、どうしても気になってしまうだろう。

デスクトップ上に並んでいる仕事関係のファイルアイコンが目に入り、「あ、明日のプレゼン資料をつくらなきゃ」と思ったが最後、僕たちはすぐさま「他人モード」に引き戻されてしまう。

ゲームアプリのアイコンが目に飛び込めば、すぐに僕たちの「余白」はゲーム時間に埋め尽くされてしまう。その点、真っ白な無地のノートを眺めていても、そのような邪魔が入ることはかなり少ない。

また、デジタルデバイスの余白は「奥にしまい込まれている」という点に弱みがある。「スマートフォンを手に取る→ロックを解除する→アプリを立ち上げる→新規作成をタップ」といったいくつかのプロセスを踏まないと、余白にたどりつけないようになっているのだ。

他方、紙のノートは、開けばすぐそこに「余白」があるようスタンバイされているし、その物理的な実体そのものが僕たちに「余白」を想起させてくれるようになっている。

そういうわけで、余白デザインの第一の原則は「ペーパー・ファースト」なのである。

佐宗邦威(さそう・くにたけ)

株式会社BIOTOPE代表/チーフ・ストラテジック・デザイナー。大学院大学至善館准教授/京都造形芸術大学創造学習センター客員教授。東京大学法学部卒業、イリノイ工科大学デザイン研究科(Master of Design Methods)修了。P&Gマーケティング部で「ファブリーズ」「レノア」などのヒット商品を担当後、「ジレット」のブランドマネージャーを務める。その後、ソニーに入社。同クリエイティブセンターにて全社の新規事業創出プログラム立ち上げなどに携わる。ソニー退社後、戦略デザインファーム「BIOTOPE」を起業。BtoC消費財のブランドデザインやハイテクR&Dのコンセプトデザイン、サービスデザインプロジェクトが得意領域。山本山、ぺんてる、NHKエデュケーショナル、クックパッド、NTTドコモ、東急電鉄、日本サッカー協会、ALEなど、バラエティ豊かな企業・組織のイノベーション支援を行っており、個人のビジョンを駆動力にした創造の方法論にも詳しい。著書に『直感と論理をつなぐ思考法――VISION DRIVEN』『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』(クロスメディア・パブリッシング)がある。