テクノロジーによって私たちはいつでも、どこでもつながれる。しかし、その代償として、自分と向き合い、じっくりと考える時間を失っている。デジタル時代こそ、ときには強制的に外部との接続を遮断し、自由に思考できる「自分だけの聖域」をつくるべきだ。アナログのノートは、それを可能にする強力なツールである。人生というプロジェクトに役立つ、古くて新しい最強の道具なのだ。
本連載では、いま世界中で話題のノート術「バレットジャーナル」の発案者であるライダー・キャロル氏が書き下ろした初の公式ガイド『バレットジャーナル 人生を変えるノート術』から本文の一部を抜粋して特別公開する。
自分と向き合い、じっくり考えるのに
デジタルよりアナログが効果的な理由
バレットジャーナルの発案者。デジタルプロダクト・デザイナー ニューヨークのデザイン会社でアプリやゲームなどのデジタルコンテンツの開発に携わり、これまでアディダスやアメリカン・エキスプレス、タルボットなどのデザインに関わる。バレットジャーナルは、デジタル世代のための人生を変えるアナログ・メソッドとして注目を集め、ニューヨーク・タイムズ、ウォール・ストリート・ジャーナル、ファスト・カンパニー、LAタイムズ、BBC、ブルームバーグなど多くのメディアで紹介。またたく間に世界的なブームとなる。初めての公式ガイドとなる本書は、アメリカで発売後ベストセラーとなり、世界29か国で刊行される。
著者公式サイト
http://www.rydercarroll.com/
バレットジャーナル公式サイト
https://bulletjournal.com/
テクノロジーは、人間と情報のあいだにある障壁を取り除き、双方の距離を縮めた。スマートフォンを指でいじるだけで、たいていの知識は入手できるし、誰とだって、いつでも、どこでも、つながれる。そのせいで、僕たちはなんと約12分おきにネットとつながっている!(*1)
けれど、こうした利便性には代償がともなう──その代償とは、ケーブルの束や月々の通信費ではないし、プロバイダーのカスタマーサービス担当者を説得しようと心を砕く時間とエネルギーを指すわけでもない。
教会の尖塔にWi-Fi用の機器が設置されるようになった現代社会には、もはや聖域などないに等しい(*2)。重役室から浴室にまでテクノロジーはゆきわたり、いまでは僕たちが処理できる量を超えたコンテンツがあふれている。
すると、注意力を維持できるスパンがどんどん短くなる。研究によれば、室内にスマートフォンを置いているだけで、集中力は低下する。たとえミュートになっていても、電源が入っていなくても、集中力が落ちるのだ!(*3)
2016年、アメリカ人は、毎日、デジタル画面の前で平均11時間近くすごしている(*4)。6~8時間の睡眠時間(これもまた携帯電話のせいで減っている(*5)を計算に入れると、画面を見ていない時間は1日に6時間程度しかない。
そのなかから通勤、料理、ランニングなどに割く時間をのぞけば、もうおわかりだろう。日々の生活のなかで立ちどまり、じっと考え事をする時間は着実に減っているのだ。
ところが、バレットジャーナルを手に腰を下ろせば、このうえなく貴重で贅沢な時間を入手できる。自分だけの空間が生まれ、気を散らす心配をせずに、自分自身をより深く知ることができる。
これが、本物のノートを利用する理由のひとつだ。強制的に外部との接続を遮断できるのだ。
1冊のノートが、自由に思考し、過去を振り返り、物事を検討し、集中できる聖域をつくりだす。ノートのなかの白いページは、あなたの頭に安全な遊び場をつくる。そこでは批判されたり期待されたりせずに、のびのびと自分を表現できる。
ペン先を紙に置いたとたんに、頭と心が直接つながる回路が生じる。これはまだデジタル空間では再現できていない。だからこそ、今日まで、さまざまなアイディアが紙に書いたメモから生まれてきたのだ。
ノートを使うもうひとつの理由? それは、柔軟性だ。たとえばエクセルなどのソフトウェアはじつに便利だけれど、決まり切った特徴のなかでしか機能しない。
また特定の機能に秀でているモバイルアプリは、利便性に限りがある。どちらの場合においても、あなたはデジタル側が選んだ枠組みのなかで操作しなければならない。
これが生産性を向上させるシステムの難点だ。僕たちには、ひとりひとり独自の要求があるのに、その無限の流動性と発展性に対応できていないのだ。
一方アナログのノートは、ノートをつける当人の裁量で自由に変えることができる。ノートの機能は、ノートの所有者が想像の翼をはばたかせれば、無限に広がっていく。
バレットジャーナルの底力は、人生のどんな段階にいようとも、あなたの要求に応じられることにある。バレットジャーナルは、学校では授業ノートになる。職場ではプロジェクトを整理するツールになる。家庭では、目標を設定し、その経緯をたどるツールになる。
たとえばバレットジャーナル・ユーザーのロビン・Cは、バレットジャーナルに瞑想の記録をつける「トラッカー」〔編集部注:進捗の記録〕を設けたおかげで、432日間、1日も休まずに連続して瞑想を続けることができた。
さらに睡眠障害の原因となるものの正体を突き止めようと、睡眠に関するトラッカーも設けた。そうしたツールを発案したのは僕じゃない。彼女が自分で考えだしたのだ。
バレットジャーナルでは同時に複数の物事をこなすことができる。だからバレットジャーナルのことは「ツール」ではなく、「ツールキット」として考えるといい。生産性を向上させるために必要なものをすべて一か所にまとめられるからだ。また型にはまらないつながりを見つけられるので、人生を俯瞰できるようになる。
バレットジャーナル・ユーザーのバート・ウェブはこう述べている。「毎日、毎週、毎月、振り返りをすることで、ページの前後にざっと目を通すのが習慣になる。すると自然に、さまざまなアイディアのつながりに気づくようになる。別々のデジタルツールを駆使していたときには、そうしたことには気づかなかったからね」
(注)
*1 “Americans check their phones 80 times a day: study,” New York Post, November 8, 2017, https://nypost.com/2017/11/08/americans-check-their-phones-80-times-a-day-study.
*2 Thuy Ong, “UK Government Will Use Church Spires to Improve Internet Con nectivity in Rural Areas,” The Verge, February 19, 2018, https://www.theverge.com/2018/2/19/17027446/uk-government-churches-wifi-internet-connectivity-rural.
*3 Adrian F. Ward, Kristen Duke, Ayelet Gneezy, and Maarten W. Bos, “Brain Drain: The Mere Presence of One’s Own Smartphone Reduces Available Cognitive Capacity,” Journal of the Association for Consumer Research 2, no. 2 (April 2017): 140– 54, http://www.journals.uchicago.edu/doi/abs/10.1086/691462.
*4 “The Total Audience Report: Q1 2016,” Nielsen, June 27, 2016, http://www.nielsen.com/us/en/insights/reports/2016/the-total-audience-report-q1-2016.html.
*5 Olga Khazan, “How Smartphones Hurt Sleep,” The Atlantic, February 24, 2015, https://www.theatlantic.com/health/archive/2015/02/how-smartphones-are-ruining-our-sleep/385792.