歴史上もっとも他人とつながれる現代、私たちは「自分自身」とふれあう時間を急速に失いつつある。日々、最先端の情報と接しているのに、かえって落ち着かず、満足していない。自分にとって本当に大切なことを見極め、そこに集中するためには、今や貴重な資源となった「アナログの避難所」を意識的に用意する必要がある。そのために有効なツールこそ、1冊のノートだ。
今世界中で大ブームとなっているバレットジャーナルは、自分の人生を自分でコントロールする力を取り戻すノート術として大きな話題となっている。本連載では、発案者であるライダー・キャロル氏が書き下ろした初の公式ガイド『バレットジャーナル 人生を変えるノート術』から本文の一部を抜粋して特別公開する。
バレットジャーナルを始めると
どんな効果が生まれるのか?
バレットジャーナルの発案者。デジタルプロダクト・デザイナー ニューヨークのデザイン会社でアプリやゲームなどのデジタルコンテンツの開発に携わり、これまでアディダスやアメリカン・エキスプレス、タルボットなどのデザインに関わる。バレットジャーナルは、デジタル世代のための人生を変えるアナログ・メソッドとして注目を集め、ニューヨーク・タイムズ、ウォール・ストリート・ジャーナル、ファスト・カンパニー、LAタイムズ、BBC、ブルームバーグなど多くのメディアで紹介。またたく間に世界的なブームとなる。初めての公式ガイドとなる本書は、アメリカで発売後ベストセラーとなり、世界29か国で刊行される。
著者公式サイト
http://www.rydercarroll.com/
バレットジャーナル公式サイト
https://bulletjournal.com/
現在、バレットジャーナルを愛用しているサンディは、2017年5月、フェイスブックの動画で偶然、バレットジャーナルのことを知った。彼女はまだ乳児の子育てに追われていたうえ、睡眠不足が続いていたので、物事を整理できなくなり、忘れっぽくなっていた。
もともとは、そんなふうに人から言われるタイプじゃなかった。けれど、当時の彼女の頭のなかでは、さまざまな思考が常にめまぐるしく駆けめぐっていた。息子の睡眠時間は足りているかしら? 予防接種はスケジュールどおりに進んでる? 保育園の次回の申し込みの期日はいつだっけ? ひとつのタスクを終わらせても、すぐにほかのタスクが迫ってきた。そのためストレスは溜まる一方で、彼女はすっかり元気をなくしていた。
ほかのママたちは、私が知らない秘訣をなにか知っているのだろうか? そんなふうに悩んでいたとき、たった1冊のノートと1本のペンがあればいいというノート術があることを知った。それだけなら、たとえうまくいかなかったとしても、なにかを失うわけじゃない。
最初のステップは、その月の「しなければならないこと」をすべて書きだすことだった。そこで彼女はノートに線を引き、家族のスケジュールをひとりひとり、別の列に書き込んでいった。
家族はみんな、不規則な時間帯に活動していた。そのスケジュール表を眺めていると、今後の4週間、どの時間帯に誰がどこにいるかが一目でわかり、ジェットコースターを一時停止させるボタンをついに押したような気がした。
いつなんどき、ここに記入してある用事をひとつ忘れてしまうか、わかったものじゃない。そう考え、彼女はぞっとした。たとえば数年後には、息子を保育園に迎えにいくのを忘れてしまうかもしれない。そんなふうに大切な用事をすっかり忘れてしまうのも、時間の問題のように思えた。
そこでサンディは、そのスケジュール表にもう1本、縦の列をつくった。そこにはイベントや家族の誕生日などを記入し、一目でわかるようにした。また月々の家計ログには、支払いの期日や、支払う金額などのリストを作成した。
また毎日記入する枠をつくり、身につけたい習慣や、達成したい目標などを書き込み、その進行状況を追えるようにした──ただ「ちょっと休憩して、深呼吸をしよう!」というリマインダーを書くこともあった。
実際に自分の手を使って文字を書いていると、不思議なことに気持ちが落ち着いてきた。とはいえ、あまり高望みをしないようにと、サンディは自分をいましめた。これまでにも、さまざまなノート術を試してきたけれど、長期的に見ればまだなんの成果もあげていなかったからだ。