ところがA子は理由を伝えないまま「辞めたい」とだけ言い続けた。なぜなら彼氏がいるバンコクに移住するためだとは恥ずかしくて言えなかったからである。事情を知らないD社長は、

「君も随分仕事に慣れてきたし、これからも頑張ってもらいたい」

 と引き留めた。

社長がA子に
支払いを請求した内容とは

 そして約30分の押し問答の末、D社長はあきらめ顔で言った。

「退職の件はわかった。認めよう。しかし…」
「何ですか?」
「A子さんは新入社員の時に研修を受けたよね。その費用と研修期間内に支払った給料を一括で返してもらう」
「えーっ!!!」

 びっくりしたA子にはおかまいなく、D社長はさらに続けた。

「入社時に渡した『労働条件通知書』には、入社後3年以内に退職する場合は研修費用と給料を一括で返還することと書いてあったはずだ。自宅で確認してごらん」

 人材不足の事情により、甲社では業界未経験者を採用した場合、入社後3ヵ月間、専門機関での研修を全額会社負担で受講させていたのである。そしてA子が受講していたのはいうまでもない。

 A子は自宅に戻ると「労働条件通知書」を確認した。すると確かにB社長の言葉通りの記載があり、内容を承諾した旨の署名がA子の自筆で記されていた。

「えーっ、どうしよう…」

 A子は困ってしまった。それでもCのことで頭がいっぱいだったので、会社を辞める決意は変わらなかった。

社長から渡された
書類の内容は?

 翌日出勤したA子はD社長から1枚の書類を渡された。

「今月末で退職の場合、3ヵ月間の研修費用50万円と3ヵ月分の給料70万円、合計120万円の一括返還を求める」

 A子は書類を読むと即座に「そんな大金ありません」と突っぱねた。すると、D社長は突き放すように言った。

「じゃあ、君は退職できないよ」
「嫌です!辞めさせてください!」
「研修費用と給料分の返還に応じるなら辞めてもいいよ」