彼の説明に納得したD社長は、

「ケースにあてはめると、A子さんへの研修費用の返還請求は無理か…」

 と肩を落とした。さらにE社労士は付け加えた。

「A子さんは仕事として研修を受けているから、『給料返せ』も無理だよね」
「本当はA子さんに求人費用も請求したいくらいだ。ウチの損失は計り知れない!」
「まあまあ…、対策はこれから一緒に考えよう」

 E社労士のアドバイスを受けたD社長は、翌日、A子を呼び出した。そして6月末日での退職を認め、研修費用及び給料の返還請求はしないことを伝えた。さらにD社長は就業規則と労働条件通知書から研修費用と給料の返還に関する記述を削除した。

 甲社は仕事の受注増加のたび、新入社員の獲得に悩んできた。通年募集を行い多額の求人費用をかけていたが状況は一向に改善しない。だからといって社員に過重労働を強いるわけにもいかない。初回訪問から1週間後、E社労士はD社長に電話し、以下の提案を行った。

「まず社員一人ひとりの業務分担が適切かどうかを確認する。次に業務の切り出しを行い、会社全体として現在どのくらいまで業務対応が可能なのか見極めることが大切だ。早急にとりかかろう」
「わかった。よろしく頼むよ」

バンコクで生活を始めたA子は
その後どうなったか

 甲社を退職したA子は7月に入るとすぐに自宅のアパートを引き払い、バンコクへと向かった。Cの紹介で日系企業への就職も決まり、住居は社宅扱いでマンションが用意された。しかも場所はCのマンションから徒歩5分。「これで彼と毎日ラブラブできる!」と喜んだのもつかの間だった。

 そのわずか1ヵ月後、Cとは破局してしまったのである。理由はCの心変わりで、日本から旅行に来た女子大生と交際を始めたからだ。A子はその時初めて、Cが無類の女好きでナンパ師であることを知った。ショックのあまり会社の先輩女性にグチると、先輩は笑いながら言った。

「Cよりもいいオトコはいくらでもいるわ。例えば日本から来た駐在員はエリート揃い。明日、彼らと合コンするけどA子も来る?」
「行きます!よし、今度は駐在員の彼氏見つけるぞ!」

 A子は即座に元気を取り戻したのであった。

※本稿は実際の事例に基づいて構成していますが、プライバシー保護のため社名や個人名は全て仮名とし、一部に脚色を施しています。ご了承ください。